4.名前 ページ5
お兄さんは目を丸くしてこちらを見つめていた。
なんとかしようと思って咄嗟にでてきた言葉は「一緒にご飯に行きましょう」で、自分から言っておいてなんだが訳がわからなかった。
決してお兄さんがかっこいいからといってナンパしたわけではない。…まったくないと言ったら嘘になるけど。
私の変な発言のせいで沈黙が流れて、なんだか気まずい感じになっている。
恥ずかしさで顔に熱が集まってきた頃、目の前でお兄さんがぶは、と笑い出した。
「ふふ……それってさ、デートってこと?」
「で……!?いや、別にその、口説いてるとかでは…!」
「あはは、冗談だよ」
からかいまじりの笑い声が響く。
優しげな笑みを浮かべながら、彼は手に持っていた財布をポケットの中にしまった。
「いいよ、行こうかご飯」
「え、いいんですか?ありがとうございます」
「うん。ていうか、むしろ俺なんかと一緒でいいの?」
「いいんですよ。私、最近友達とご飯食べに行くこともなくなっちゃって。誰かと食事に行きたいなぁ〜って思ってたので」
「あ〜、なるほどねぇ。じゃあ連絡先交換しとこっか!」
あ、そうか。と思いながら、私は自分の携帯を取り出す。
出会いがなさすぎる人生の中で、こんなことがきっかけで男性と連絡先を交換することになるなんて。まるで漫画みたいだった。
LINEを開いて連絡先を交換すると、寂しかった連絡先一覧の中にお兄さんの情報が追加される。
アイコンの横に「シヴァ」の文字が見えた。
「……シヴァさん?」
「あ、やっべ。そういや名前そのままだった」
目に入った言葉をそのまま読み上げれば、お兄さんは焦ったように頭をかく。
「あだ名とかですか?」
「あー……まあ、そうなんだよね!みんなからそう呼ばれてて。そのほうがしっくりくるし、よかったらシヴァさんって呼んで!」
「わかりました……あ、ちなみに私は楠木 Aっていいます」
「Aちゃんね、おっけー!」
シヴァさんに名前を呼ばれて、なんだかちょっとだけ胸があたたかくなった。
そういえば誰かに名前を呼ばれるのは久しぶりかもしれない。
配信をやっているとたくさん名前を呼ばれるけど、それはコメントの文字であって実際に誰かの声を聞くわけじゃない。
こうやって目の前で自分の名前を呼んでもらえるのは久々で、ちょっぴり嬉しかった。
続く お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←3.ごめんね
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うみうし | 作成日時:2023年12月17日 22時