･ ページ43
手に持ったままだったスケッチブックを持ち直す。嫌な予感がして中尾君に静止をかけるが、その時には遅く、先生の目の前で開かれていた
『中尾君…それは酷くない？』
｢ほら、先生美術の専門だし、せっかくの機会だよ。見てもらおう｣
してやったりの顔に、怒りの篭もった視線を送ったけど、本人は全く気にしていないようだった。スケッチブックをのぞき込むようにして見ている先生は動かない
まさか引かれてるのか。とか、恥ずかしさや無言が辛すぎて声をかけたけど、それを遮るように、めくって。先生の中尾君に対する指示が飛んだ
先生は全くそのままの体制でめくられて行く絵を見てるし、中尾君は黙ってそれに従ってる。恥ずかしいのは多分私だけ。
知ってるかい、絵を描いて見られることは嬉しいけど同時に恥ずかしいんだよ。ましてや、好きな人絵を！その人本人に！
何枚かめくり終わったあと、これでおしまいです。と中尾君が言ったのを皮切りに、先生はしゃがみ込んだ。
はぁぁと深く息を吐いたあと、右手が伸びてきた。私の手を掴む。ぎゅっと、暖かい。ありがとう。小さな声で聞こえた。相変わらず先生の顔は見えない。
何かを察した様子の中尾君は、先生を見ながら笑った
｢嬉しいですよね、こんな時気持ちが込み上げすぎてなんて言っていいか分からなくなる。｣
｢……流石は恋人と付き合いが長い中尾だな｣
｢それはもう。あいつには散々やられました｣
あいつは多分水越さん。またあのユルユルの顔。先生は手の握る強さを強めて、私の指に自分の指を絡ませる。暫くして落ち着いたのか、ゆっくり立ち上がった。私に視線を向けると薄く笑った。
｢ありがとう…俺はこんなに優しい顔してたのか？｣
ゆっくり頷く
｢そうか…Aがそばに居るからだな｣
『え、私…ですか』
｢そうだよ｣
二三回頭を撫でてくれた。それが気持ちよくて、思わず先生の手に頭をすり付けるように、背伸びした。それにまた先生が笑う。そして離れると、さて、といつもの調子に戻った
｢中尾、北原の看病ありがとう。すまないが戻って貰えるか？｣
｢分かりました｣
準備室奥に進み、下の階に繋がる扉を開ける。そこから伸びるハシゴを使って降りてゆく中尾君。
｢じゃあな、北原。いつになるかわかんねぇけど、また後で。｣
『うん。バイバイ』
手を振れば振り返してくれた。そのまま姿は見えなくなり、先生は扉を閉め鍵をかけた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 388人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
くすさな(プロフ) - 夜空舞琳さん» すみません…気付かなかったです(><)訂正しました！よろしかったら確認お願いします！これからもよろしくお願いしますm(_ _)m (2019年3月5日 13時) (
レス) id: 780399e946 (このIDを非表示/違反報告)
夜空舞琳(プロフ) - ページ31の里見が風見になってますよ (2019年3月5日 9時) (レス) id: 560c97d27f (このIDを非表示/違反報告)
くすさな(プロフ) - さくさん» ありがとうございます！そんな事を言って頂けるとは...感無量です(*^^*)これからも頑張りますね!! (2019年3月5日 0時) (レス) id: 780399e946 (このIDを非表示/違反報告)
さく(プロフ) - 続きがすごく気になります！更新頑張ってください！楽しみにしてます！ (2019年3月5日 0時) (レス) id: 0e87e79620 (このIDを非表示/違反報告)
くすさな(プロフ) - 花音さん» ありがとうございます(´∀`)頑張りますねっ！ (2019年3月3日 16時) (レス) id: 780399e946 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：くすさな | 作成日時：2019年2月25日 23時
