僕らの秘密が【Fischer's モトキ】

13･人生を棒に振る【秘密】 ページ13

モトキside

下を向きながら話すA。その表情は暗くて、それでいて苦しそうだった
座る距離も気持ちも何か間があって、いつもみたいに接せれない

『その恐怖は収まらないでずっと俺の心の中に住み着いたんだ。それこそ今だって』

不意に合った目
その瞳の奥とは反対に、キラリと光るものが落ちる
涙だった。怖い、寂しい、辛い。そんな感情が読み取れる涙

その涙をすくってあげたかったけれど、今はやめておいた方が良いだろう
そっとハンカチを渡した

そのハンカチを瞳にあて、顔を隠したまま口を開くA。僕の顔が見えないことで、少しは｢僕達に嫌われる｣という意識が離れるといいのだけれど

『……それでその恐怖と共に逃げられない状態になりだしてた。歳を重ねていく事に、性別を表す変化が起き出して、どうしようもなくなってた』

足の間に顔を埋め、小さく丸まりながら話している彼女は震えていて、今にも消えてしまいそうだった
声はどんどんとすぼんでいく

それは蒸発していく水のように、確かに存在を覚えているのに、形すらも分からなくなる不安感を匂わせるものだった

『それからは必死だったよ。どんどん膨らんでいく胸を潰して、目立たないようにした。女の子の日は匂いで悟られないようにするのも大変だったな』

頑張って笑おうとするA。ハンカチは絶えず濡れているのに、見える口元は笑っていた

(無理なんてしないでよ)

そう言いたくても言えない。それは彼女の努力なのだから
それを否定なんてできるはずがなかった

『柔らかくなってく体を鍛えて、落ちやすい筋肉は筋トレでカバーした。身長は伸びてくれたからよかったよ。お陰でふっくらな感じもごまかせた』

だってその努力は

『これだけした甲斐あって皆気づかなかった。やっとこれからも皆と居れる覚悟ができた。その覚悟は死ぬまで続けて、秘密は墓場まで持っていくつもりだったのに』

僕らと居たいが為に

『あなたに、モトキにバレてしまった』

僕達の為だけに

『俺……もうここに居られないよね……』

Aが人生を棒に振って作り上げた物だから

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