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「何をそんなに悩んでいるんですか」
「…いや、」
「隠し事ですか。他人には教えろ教えろと言う割に」
「…」
紅炎は呆れ顔の紅明を見て、暫く考え込むような仕草。そして、
「お前は、あの娘がここに来てからどれくらい経ったと思う」
と問うた。
紅明は勿論、予想外の質問をされて拍子抜けをする。
「…頭打ちました?」
「打ってない。質問を質問で返すな」
即答する紅炎。
「はあ…なら、いいのですが。紅覇もさっき言っていた通り、1年では…?」
「…やはりそうか」
「はい?」
「…いや、なんでもない。俺の勘違いだったようだ」
「はあ」
明らかに“勘違い” ではないと言うような返事だと思いつつ、紅明は受け流す。
「そう言えば紅明、お前に先日貸した本の上巻は」
「あー…申し訳ありません。自室で探してはいるんですが、」
「…」
失くしたのか、と視線を送るとすかさず
「申し訳ありません。探してきます」
紅明が深々とお辞儀をし出ていくと同時に、紅炎は壁と同化した本棚の引き出しから1冊の巻き物を引き出す。
『古文 下』
そう文字が書かれた表紙。その隣にはもう1本分入るほどのスペースが空いている。紅明に貸している巻き物が入っていた空きだ。
「…」
紐を解き、切れ端を摘んで机上に広げると、つらつらと綴られた文章が視界に入り込んでくる。
内容は至って普通の、歴史のようなものだ。トランの民や世界の歴史のことが綴られている。
しかし、最後の文章だけはどうもおかしく、
『此 歴文 彼の世界の者呑み 解読可』
と終わっているのだ。
紅炎はこれを、“常人はただの歴学に見え、アルマトランの住人には本来の内容が読めるようになっているのではないか”と解いた。その上巻が失くなってしまった今、少しの焦りを感じている。
若し今必要な事項や事柄があの上巻に書かれているとしたら?若し俺の求めているものが書いてあるとすれば?若し…
上げてみればきりがない。兎に角、少なからず只管に紅明には憤りを感じている。
コンコン────
部屋の扉からノック音が響いた。
「誰だ」
巻き物を丸めながら問うと、扉の奥からは聞き覚えのある声でこう答えた。
「俺だよ。ジュダルだ」
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紅妃(プロフ) - 睦月サイハさん» コメント有難う御座います!ここのところ更新してなくて本当に申し訳ありません。わたくしめには勿体ないお言葉を頂けて、本当に嬉しい限りです。そろそろ話が進むので、気長に待っていただければ幸いです! (2017年10月12日 0時) (レス) id: d4608e4b4b (このIDを非表示/違反報告)
睦月サイハ - あの、更新頑張ってください!とても面白いし、続きが気になります!ゆっくりで良いので頑張ってください!応援しています! (2017年10月11日 23時) (レス) id: 78af19d42e (このIDを非表示/違反報告)
紅妃(プロフ) - ゆみさん» 最新話の感想コメント有難う御座います!やっと今まで書きたいところを書けたので、読者様にもそう言っていただけてとても嬉しい限りです!みんなが無事でいられることを私も祈ります… (2017年7月8日 16時) (レス) id: d4608e4b4b (このIDを非表示/違反報告)
ゆみ - シェルの正体は何者でしょうか 続き気になります 何かたくらんでいるのはあきらか みんな気をつけて (2017年7月8日 13時) (携帯から) (レス) id: a64fcc18a2 (このIDを非表示/違反報告)
紅妃(プロフ) - ゆきさん» 感想コメ有難う御座います!そう言っていただけるなんて光栄です、頑張ります!!;;;; (2017年5月25日 8時) (レス) id: d4608e4b4b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅妃 | 作成日時:2016年12月6日 1時