10.今、無性に ページ10
「……っ!はぁっ、はぁ……!…うっ……」
家に帰るなり思い切り扉に鍵をかけ、いつもはつけないドアチェーンやドアガードまでして扉をロックする。
あとは、大きめの椅子をバリケード代わりに置いておく。
「……はぁっ、はぁっ…………」
自身から出る呼吸の荒さと、とんでもない心拍数に、どれだけ焦っていたのかが良く分かる。
こんなに全力で走ったのは高校最後の体育祭ぶりだろうか。
いやその時でさえこんなに走ったことはないかも。
毎年選抜リレーのアンカーに選ばれるくらいには足に自信があった。逆に言えば走ることしかできなかったのだが。
取り敢えずは一安心か……?
と思い安堵すれば、自分の手の震えに驚く。
……あぁ、本気で怖かった。
怖くて怖くて堪らなくなって、また泣きたくなったが、案の定涙なんてものは出ない。
朔に電話したかったが、彼女に心配かける訳にもいかず、1人で深呼吸する。
思い出したくもないあの歪な好意の音。
恐らく……ではなく確定でストーカーとかの類のやばいやつ。聞いたことない音だった。
こういうのってやはり警察に相談した方がいいのだろうか。
でも、証拠もないし、何なら相手の顔も見ていない。
私的に根拠はあるが「不快な音を聞いた」と言われて動いてくれる人はいないだろう。
そもそも信じてくれないし。
動いてくれるならば、相当なお人好しか、私と同じ「音」が聞ける人。
まぁどちらもそう都合良く現れてくれる訳は無いが。
好意の音にあんな不快感を覚えたのは初めてだ。
……たんぽぽ君の音なら嬉しいんだけどな。
そこまで考えて、なんだか無性に彼の音が聞きたくなった。
釣られて恥ずかしくなる程、純粋で甘い音。
「………今の私の音を聞かれたら、たんぽぽ君恥ずかしくて死んじゃうかも」
彼のことを考えていたら次第に収まっていた震えや呼吸、心拍数に「もしや」と思ったが、もう何も考えないで寝てしまいたい。
全力疾走により乱れた髪も、化粧もそのままにして、ベットへダイブした。
言うまでもなく、眠りに落ちるのに、そう時間はかからなかった。
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作者名:tokumei | 作成日時:2023年8月21日 13時