8.彼女の音に ページ8
たんぽぽ君side
炭治郎達に促されて、遂に1人でここまで来てしまった。
Aさんを見てからというもの、俺はあの気持ちが恋しくなって、大学の美人な先輩に声を掛けては、玉砕するという行為を繰り返していた。
流石に炭治郎に止められたけど。
でもやっぱりどんな先輩に声を掛けても、Aさんに会った時の気持ちにはなれなくて。
一週間くらい経ってようやくここに来る決心ができたというわけだが……。
「……本当にここに1人で入るの?いや無理でしょ」
あのお洒落なカフェを見て今更ながら尻込みしているのだ。
こんなことなら引きずってでも炭治郎と伊之助を連れてくればよかった。
そもそもAさんが居なかったらどうすんだ。この勇気無駄だぞ。
そう思い、窓から確認の為怪しまれないようにそっと店内を覗く。
「……いる……!」
店内は前来たよりも空いていて、思ったより中が良く見えた。
そうなれば当然、Aさんのことも見つけやすくなる。
俺は、あの時と同じ綺麗な顔で接客をするAさんに引き寄せられるかのように、気づいた時にはもう入口の扉に手をかけていた。
チリン、とあの音が聞こえる。
その瞬間、Aさんが迷いなくこちらへ向かってくる。
やばい、今更緊張してきた。
俺、変なところないかな?
「いらっしゃいませ、何名様、で、す……か……?!」
こちらを見るや否や、あの笑顔が引き攣って、固まる彼女を見て、何処かで「あ、終わった」と思った。
明らかに動揺している。音を聞くまでもない程に。
「ひ、1人…です」
扉を開けてしまった以上、引くに引けないので、控えめにそう答える。
「たん……っ!
………大変失礼致しました。1名様ですね。こちらの席へどうぞ」
「あ、有難う、ございます……!」
何か言いかけて止めるAさんに少し違和感を感じたが、そのあとすぐにあの綺麗な笑顔に戻った為、気にしないことにする。
席に案内させている中、またこっそりと彼女の音を聞く。
どうやら俺も相当馬鹿のようだ。
これで最後、もうこれ以上困らせない。
「………っ?!」
そう、思っていたのに。
貴女から好意に近い音がするのは……俺の気のせいなのだろうか。
今の俺の顔を見られたくない為俯くと、「ごゆっくりどうぞ」の言葉と共に離れていくAさん。今はそれに救われる。
こんな顔見られたら、どう足掻いてもこの気持ちを誤魔化せない。
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作者名:tokumei | 作成日時:2023年8月21日 13時