後日談・静かな誓い ページ25
_5年後
「ねぇ、A」
「んー?どうしたの?善逸」
善逸と出会ってから5年の歳月が流れた。
今では私も、音楽関係の職に就き、善逸も同じ職場に就職してきた。
耳が良い私たちは重宝されて、今の仕事は大分天職だ。
私が大学を卒業してからは、善逸の借りていたアパートを引き払って、私の家で同棲を始めた。
リビングにそびえたつ大きな本棚は、相も変わらず頭が良さそうに見える。
同棲を始めて4年経つが今のところ善逸とも大きな喧嘩もなく平和に過ごしていた。
そんな中、善逸の言葉はいつもの何気ない日常会話だと思って、軽く聞き返した。
「結婚しよう」
「うん。………って、えっ?!」
いつもよりも落ち着いた彼の声に、思わず心臓が跳ねる。
持っていたスタパのキャラメルマキアートを零しそうになるが、何とか堪えた。
驚いて善逸の方を見れば、またしても手元が危なくなる。
「噓、でしょ……?」
「本当なら一緒に買いに行くべきだったかもしれないけど、サプライズ。
サイズは……うん、ぴったりだね」
そっと左手の薬指にその銀の輪っかを通される。
吸いつくかのようにぴったりなそれに、ちょっと引く。何で知ってんの?
「俺がAの身体の事、忘れるわけないでしょ」
その輪が通る指に唇を落としながら、艶っぽく笑う彼に不覚にも、ときめく。
ふと、恋人になったあの日のことを思い出せば、可愛いと思っていた年下の善逸くんは随分と男前になったな、としみじみ思った。
そうか、結婚……。
「……善逸くん」
「え、急に君付けしてどうしたの?なんか懐かしいね?」
眉を下げて優しく笑う彼の音に、どれだけ私が救われたのか、この人は知らないんだ。
5年前のあの日、熱くて痛いくらいに紡いだ言葉をまた、紡ぐ。
「__手放せないくらい、君が好きだよ。
絶対に、捨てないでね。きっと想像以上に……重い、けど」
「っその言葉………っ!
……って!え?!な、泣いて……っ?!」
視界が滲んで、よく見えない。
慌てふためく善逸を見れば、自分が涙を流していることに気づいた。
あぁ、やっと、泣けたんだ。
しかもその理由が嬉しくて、なんて。
丁寧に、そして優しく、流れているそれを拭っていく善逸を見て、また、雫を零す。
「愛してる、A。
__俺と結婚して下さい」
「……っはい、喜んで……っ!」
そっと交わした静かな誓いは、涙の味がした。
_後日談・静かな誓い
fin
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作者名:tokumei | 作成日時:2023年8月21日 13時