15.八方塞がり ページ15
「A、今日はバイト休み?」
「うん。休み。良かった休みで」
「お、なんかあった?」
「昨日めっちゃやらかした」
「あー……疲れてんじゃない?」
「そうかも」、と肩を竦めて見せる。
まぁ今日ゆっくりするつもりだと言えば、今朝方寝坊キメてたくせにと小突かれた。ぐぅの音も出ない。
因みに補足すると今は5限の真っ只中である。
コソコソと話している私達をどうかそんな目で見ないでほしい。
ゆっくりするとは言いつつも、今日はバイトが無いからその分講義を入れている。
なんと私にしては珍しく、7限にも講義がある。
朔は5限で帰るらしいから、この講義が終わったら帰るのだろう。
7限にも講義があることを伝えれば、彼女は案の定驚いた顔を見せる。
まぁそうだろう。私は基本、午後はバイトがあるから午前上がりなのだ。
そもそも5限に居ることさえ珍しいとも言える。
そんな、講義中にする話題ではない会話をしていると、いつの間にか講義が終わっていた。
朔を見送り、仕方なしに1人真面目に講義を受ける。
……外が暗くなっていることにも気づかない程、集中していた、と思う。
あれから90分の講義を2回続ければ、当然外も暗くなる。
時間はとっくに21時を回っていた。
「んー……やらかした、か」
建物から出て、無意識のうちに言葉が漏れていた。
春の日没時間は早い。既に日の光など微塵もなかった。
これはそう。気づいた時には遅すぎた、というやつだ。
今まで友人や後輩、そして講義があったから忘れていた。
………あの不快すぎる音の存在を。
しかしこうなれば仕方ない。
タクシーを呼ぼうと考え、スマホを手に取る。
うん、最近は便利でいいな。
ただしそんな私を嘲笑うかの如く、現実は無情だった。
「っ私は大馬鹿者か………?!」
……スマホの充電なんて全く見ていなかった。
黒い画面に充電切れのマークが映る。
ええい、それを映し出す余裕があれば0.1%でも充電を使わせろ、と無茶苦茶なことを思い立ってしまう。
成す術無くして5分ほどその場に突っ立っていたが、それも時間の無駄だと気付き、怯えながら歩を進めることにした。いざとなれば走ろう。
タクシーが通りそうな大通りに行ければよかったが、まずその大通りまでの道のりが、家に帰る道のりよりも街灯が少なく、怖かったので行けなかった。
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作者名:tokumei | 作成日時:2023年8月21日 13時