人形と犬【男主】 (ページ4)

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玄関にある物と似たような、美しいビンテージ塗装のブラックシャンデリアが、部屋を、皆を、電球色で照らしている。この、暖かくて穏やかな気持ちになる部屋と違い、僕は暗く憂鬱だった。この食事の時間が一日の中でも一番嫌いで悲しい時間だからだ。僕の手元には何も無い。皿も無い、フォークも無い。僕は皆と食事してはいけない。母様の言いつけ。僕は、自分の部屋で、誰にも見られないように、一人で食事をする。僕は皆とは同じものは食べれない。母様は、『栄養が偏る』、と言っていた。おやつも食べれない。母様は、『体に悪いから』、と。

弟はいつも食べているのに、僕は駄目。そんな僕をさも当たり前とでも言うように、皆は目の前で食事をしている。

僕はサンドウィッチもクッキーも食べたことが無い。オレンジジュースも、かぼちゃジュースも飲んだことが無い。だから、それがどんな味か分からない。想像さえ出来ない。それなのに僕は毎朝ここに座っていなければいけない。これが母様の愛。僕に対する愛だ。

弟は僕に似た服を着ているが、ベレー帽も、ガーターベルトも、ヒールの靴だって身に付けていない。

僕は、部屋の隅に立っているルーカスを泣きそうな目で見た。ルーカス、君ならどう思う？僕を可哀想だと思うかい？

母様がルーカスを冷たい目で見た。ルーカスは驚いて、僕から目を逸らす。

あぁ。君もか。

母に愛おしいと言わんばかりに見つめられた僕はそう思った。