人形と犬【男主】 (ページ3)

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身だしなみを整えた僕は、黒い階段を降りていった。後ろからルーカスがついてくる。僕のショートブーツのヒールは、紺のカーペットに吸われて音が鳴らなかった。母様はヒールの、コツコツ、という音があまり好きではない。だから、僕の部屋のまわりの廊下には、洒落たカーペットが敷きつめられている。全て母様の趣味だ。長い階段を降りると、すぐ玄関に出る。無駄に大きく綺麗で、隅々まで掃除されているとひと目でわかる。

朝食を食べるために家族が集まる大広間へ僕達は向かった。焦げ茶の腰壁の上は紺色の壁で、蝋燭が一定の間隔で、黒の蝋燭たてに掛けられている。金や銀の額で飾られた肖像画は、まだ早朝だからか、何枚か眠っており動いていなかった。階段の下の壁には小さなスペースがあり、黒の小机と、大きな焦げ茶の古い振り子時計が置かれていた。

長い廊下を進むと、大きな弟の笑い声が聞こえてきた。急いで大広間の両開きのドアを開けると、母様と父様、そして嬉しそうに笑っている弟────サジタリアスが、僕を振り返った。皆は食事をしていた。大きな白磁のお皿には、色々なものをはさんだサンドウィッチ、別のお皿には、イチゴやブルーベリー、パイナップルなどが美しく盛り付けてあった。その他にも沢山の料理が広いテーブルに美しく並べられていた。

皆先に食べていたのか、と少し寂しくなった。お腹が鳴るのを、ぐっ、と堪えて椅子に座る。皆から、｢おはよう｣、と笑顔で声をかけられた。皆の手元には取り分ける用の小皿、手にはフォーク。

｢おいしいねっ｣弟が。

｢そうだね｣父様が。

｢そう。良かったわ｣微笑む母様が。

幸せそうだった。