勘違 ページ12
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薄紫の濃淡をつけた空に橙色の光が走る。
二人きりになってしまった俺とAは気まずさの中お互い黙って俯いていた。
「…少し、歩くか」
「…はい」
特にどうするわけでもなく、庭に咲く藤棚の横を並んで歩いてく。ひやりとし始めた風が頬を撫でて気持ちよく、ちらりと横を見やればAも気持ち良さそうに頬にかかる髪を耳にかけていた。
「綺麗な夕陽ですね」
凛とした、歌うような声。
夕陽に照らされて見えたAの横顔が妙に艶っぽく、俺は返事も出来ずにAを横目に見つめていた。
「……こうして話すのは久しぶりだな」
意を決して話してみる。
振り返るAの視線を感じるが、俺は直に見れないでいた。
「……綾瀬は、俺のことが嫌いか」
「えっ」
焦りを含んだ声。
顔を見なくとも戸惑う様子が分かり、困らせてしまったと落ち込んでいると「あの…冨岡さん?」と小さく顔を覗きこまれた。
目の前に現れたAの顔に、どくんと分かりやすく心臓が波打つ。
心配そうに眉尻をさげたAは、何とも可愛らしかった。
「何か勘違いされているようですが…私はそんな事思っていませんよ?」
「…本当か」
「もちろんです」
「……そうか」
よかった、と心の内で安堵していると隣からくすりと笑う声が聞こえた。
「何か可笑しいか」
「いえ、冨岡さんがそんな事思っていたなんて思わなくて」
「…結構悩んでいた」
「そうなのですか?」
不思議そうに訊ねるAに「……避けられていると思っていた」と吐露すると、顔が徐々に赤く染まるAが「あ、あれはですね…」と口ごもる。
「どうした?」
「冨岡さん…覚えてらっしゃらないですか?体調崩された時、その…わ、私を」
「……」
『Aちゃんに何をしたんですか』と冷たく言い放つ胡蝶の言葉が脳内に響く。
俺は直ぐ様その場に跪き、Aに頭を下げた。
「えっ…え、と、冨岡さん?!」
「腹を切ってお詫びする」
「あ、あの…!」
「嫁入り前の娘に、記憶がないとはいえ取り返しのつかないことを」
「待ってください!」
「凄く勘違いされています!」と慌ててAが俺と童謡にしゃがみこみ、「違うんです!そういうことではなくて…っ」と俺の刀を握る手を優しく包んだ。
「嬉しかったんです、私すごく」
「…嬉しかった?」
「はい」
穏やかな眼差しで答えるAは、「…あちらに腰掛けて、少しお話しませんか」と優しく微笑んだ。
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やも - Regulusさん» コメントありがとうございます!更新お待たせしました。楽しんでもらえるよう頑張ります。 (2020年5月5日 9時) (レス) id: d5279b18f1 (このIDを非表示/違反報告)
やも - まゆさん» 初のコメント嬉しいです。ありがとうございます!喜んでいただけるよう頑張ります。 (2020年5月5日 9時) (レス) id: d5279b18f1 (このIDを非表示/違反報告)
Regulus(プロフ) - 続き楽しみに待ってます!更新頑張ってください(*≧∀≦*) (2020年5月3日 23時) (レス) id: 9c91fd3a1d (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 好きです。応援しています。 (2020年4月30日 15時) (レス) id: 333fde5e7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やも | 作成日時:2020年4月23日 10時