Dolce (ページ10)

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Curse ページ10

その後のフランスでの日々を、私はのんびりと過ごした。

散歩に行く日もあったし、ブランドショップで買い物をする日もあった。買い物にはあまり興味がないけど、美しい服を身にまとうのは好きだ。パリのおしゃれなカフェにも気分が上がった。

そうやって自由気ままに過ごしていたら、ふとヴァイオリンに触れたくなった。物心ついたときから私の日常はヴァイオリン一色なのだ。触らないと逆にそわそわしてしまう。

私の一番大切な宝物。財団から貸与されている私のストラディバリウスは、深みのある音が特徴的で、チャイコフスキーをはじめとする華やかなコンチェルトと相性が良かった。

　ホテルの部屋で、フランスまで持ってきていた愛器を構える。顎に挟んで、軽くチューニングをして弓を構えて。そこまでしたのに、脳裏に母親の顔が浮かんできた途端、私は音を出すことができなくなった。

母親との思い出が詰まっているヴァイオリン。素敵な思い出がいっぱい詰まっているはずなのに、どうしても「母の死」が想起されてしまって手が震えた。
結局その日は一音も出さぬまま、楽器をケースの中にしまい込んだ。

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