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大きな窓から差し込む光で、目が覚めた。寝起きでぼんやりする頭で、ああここはフランスか、と理解する。
今回のファッションショーが活動休止前に決まっていた最後の仕事だった。今日から当分の間、私は仕事をしなくていいし、コンサートもない。久しぶりの自由だ。
せっかくフランスに行くのだからと、今回の滞在は一週間と長めにした。マネージャーは本国で仕事があるから一足先に韓国に戻った。つまり、私は何をしてもいいということ。
「そうはいっても、なにをしよう…」
練習漬けの日々を送っていたからか、私にこれといった趣味はない。とりあえず、外に出て散歩でもしようと身支度を整えた。ファンにばれると対応が大変なので、一応帽子を深くかぶった。みんな私に興味はないと思うけど。
パリの街に繰り出した私は、とりあえずカフェでアイスアメリカーノを購入し、公園に行ってみることにした。春の陽気でぽかぽかと暖かい。ベンチに腰を下ろした私は、空気を目いっぱい吸い込んだ。
公園の芝生でははしゃぎまわる子供や駆け回るゴールデンレトリバー、寄り添いあうカップル。
幸せな風景。私にはない幸福。どこにいても私は一人なのか。ふと気が付くと、そんな自問自答をしていた。答えなんて、ないのに。
その時、私の携帯が震えた。ジョンインからのカトクだった。
『A、もしかして△△公園にいる?』
昨日交換してから、初めてのカトクだ。ゆるむ表情筋を叱咤しながら返信する。
『うん、いるよ。日向ぼっこしてた』
なんで知ってるんだろう。疑問に思っていると、
「じゃあ僕も一緒に日向ぼっこしようっと」
「え?!ジョンイ、」
ストンと私の横に座りながら、しー、と人差し指を口の前に持ってきて私の発言を止めたのは、今まさにカトクを送ってきた本人であった。
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作者名:tomchi | 作成日時:2024年3月6日 21時