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私の音楽活動休止は、思った以上に大きなニュースであったらしい。
テレビを付ければ、芸能人が悲しそうな顔をしてぺちゃくちゃ喋っていたし、ネットニュースにもなっていたようだった。母親を亡くしたことで世間の同情を引いたようで、悪口をいわれるよりはましか、とぼんやり思った。
音楽活動休止を発表したとしても、私のキャリアが止まることはない。
若い頃女優をしていたという母親の容姿を多分に受け継いだ私には、CDデビューしてから数多くのスポンサーがついた。彼らと私は、契約で繋がっている。活動休止を発表する前に決まっていた仕事は、どうしてもこなさねばならなかった。
今日はその仕事の一つ。有名ブランドのアンバサダーとして、ファッションショーに招待されたためフランスへと来ていた。
花の都、パリ。以前コンクールに出るために来たことがあった。そのころは母がいて、順調な音楽活動をしていて、それで。
ファッションショーが始まる前。写真撮影を終え、ゲストの位置に座った私は、そんなとりとめのないことを考えていた。数人知っている人がいたけれど、生来人見知りの私は話しかけるなんてことできなくて、1人でおとなしく座っていた。スマホを開いて、マネージャーから送られてきたスケジュールを見たりして時間をつぶす。すると、目の前に大きな人影があることに気が付いた。
「久しぶり」
それが私に向けられたものだと即座に判断できなくて、慌てて上を向く。
一瞬、息が出来なかった。
何年も前、釜山にいた時に大好きだったジョンインが、そこにいた。
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作者名:tomchi | 作成日時:2024年3月6日 21時