Stagnation ページ3
母が死んでから、私はどこかおかしかった。
母が居なくても、スケジュールは進んでいく。予定されたコンサートも、コンクールも予定通りこなしたし、そこそこの出来栄えだった。でも、以前とはなにかが違うのだ。
「彼女の演奏には愛がなくなった」
「まるでロボットのよう」
「無機質な音楽」
コンサートのたび、そんな批評がされるようになった。
演奏に愛がない?当たり前だ、愛を受け取っていない人間が、どうやって愛を表現すれば良いのだろうか。
芸能の世界は、薄情であると気づいたのはいつからだろう。上辺だけの人間関係、口先だけの人間たち。母が死んでから、私の周りには、私と母が血反吐を吐いて積み上げてきたものを、隙をついてかすめ取ろうとする人々が絶えなかった。
誰も、信じられない。
自分の心が朽ちていくような感覚に陥る。
「…私って、なにがしたいんだっけ」
気が付けば、夜に眠れなくなって、次にご飯が食べられなくなった。一日も欠かさずにしていた基礎練習ができなくなって、楽譜を上手く読めなくなった。
私の異変に気付いたマネージャーと病院を受診し、私の状態に名前が付いたころ、事務所から私の活動休止が発表された。
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作者名:tomchi | 作成日時:2024年3月6日 21時