Dolce (ページ11)

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Chatting ページ11

帰国してからは、大学と家を往復する生活を繰り返している。
ソウルの高校を卒業した私は、韓国で最も権威のある音楽大学に進学した。周りからはそれが当然だと言われたし、自分もそれでいいと納得して決めた進路だった。
　周りは国内外で結果を残してきた所謂「天才たち」で溢れている。
　「A、お昼一緒にどう？」
　午前の授業終わり。未だに食欲はないけれど、手持ち無沙汰で食堂に向かっていた私に声をかけてきたのは、同じ学科のソユンだった。彼女は高校時代、同じ音楽院で切磋琢磨した良きライバルであり、大学での数少ない友人の1人である。
　「うん、ちょうどご飯食べようと思ってたところなの」
　2人で券売機に並び、学食を購入しようとしていた時だった。
「あのっ、Aさん、ですか…？」
見たことのない顔の男子学生だ。
「はい、そうですけど…」
「やっぱり！この前の演奏会見に行ってました！学科選抜者のやつ！それからずっとファンで…あの、サイン貰えませんか！」
「あ、はい、」
相手の熱量に若干押されつつ、差し出された色紙にスルスルとペンを滑らせていく。こんなふうに声を掛けられることは珍しいことではない。大学の宣伝として私の顔はよく使われているし、他の学生と比べてメディアの露出が多い私は、大学内でも常に人の視線に晒されていた。
ありがとうございます！と勢いよく頭を下げた彼を見送り、最初の目的であった食券を購入。活動休止中だし、そっとしておいてほしかったな…なんて、どうしようもないことを考える。
「相変わらず有名人ね～、この前も紹介してほしいって男が私の所に来たわよ」
もう慣れっこなのか、ソユンは呆れた顔だ。
「いつもごめんね…」
「いいのよ、そんなしょげないで！私の子猫ちゃん～～」
ソユンは私のことをよく「子猫ちゃん」と呼ぶ。私のちょっと吊り上がった丸い目が猫みたいなんだとか。
「っていうかインスタ！見たわよ！アイエンと仲良さそうだったじゃない！」
「あいえん…？あ、ジョンインか、幼馴染なの。」
やっぱり。ファッションショーでの様子がばっちりカメラに捉えられて、ＳＮＳで話題になっているようだった。