Dolce (ページ1)

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Bygones days ページ1

「神に愛された少女」と、呼ばれていた。

物心つく前に与えられた楽器で、私は何も教えられなくても音階を正しく弾くことができたし、同年代の子よりもずっと上達が早かった。

「天才少女現る」「数十年に一度の逸材」

常にスターを探している音楽業界はこぞって私を称賛し、スターにしようと躍起になった。

私は何も分かっていなかったのだ。

ただ、私が上手に演奏すると母親が喜んでくれる、笑ってくれる。
「Aちゃんのヴァイオリンが、ママは一番好きだな」
そういって私の髪を優しくなでる母が、大好きだった。

私の好きだったもの、もう一つ。毎週日曜日、敬虔なクリスチャンであった母親に連れられて協会に行くたびに、私に話しかけてくれた狐みたいな顔の男の子。
ミサの後、レッスンに直行するために私はいつも楽器を背負って協会に行っていたのだけど、その男の子は私の横に来ると、「Aちゃんのヴァイオリン、聞きたい！！」とキラキラした目で話しかけてくれたのだった。時間の関係で、いつも彼に演奏を聴かせることはできなかったけれど。

音楽活動に集中するため、小学校ではまともに友達をつくれなかった私の唯一の友達。ジョンイン。讃美歌をとっても上手に歌う彼が、大好きだった。

中学校に上がるタイミングで、更に高度なレッスンを受けるために釜山からソウルに引っ越すことになった時、私は大泣きした。

「ジョンイン、ジョンインと一緒じゃなきゃやだ！やだ！」

思えば、これが初めての反抗だったように思う。しかし、大人同士で決められた決定事項を覆すことはできなかった。引っ越す前の日、私の家を訪ねてきたジョンインは切れ長の目を真っ赤にして、今にも泣きそうな声で、
「Aちゃん、元気でね。僕のこと、忘れないでね。」
そういって小さな花束をプレゼントしてくれた。私は涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃの顔で
「忘れない、忘れないよ、ジョンイン、だいすきだよ」
そういって花束を受け取ったんだっけ。

ソウルに引っ越してから、私は順調にキャリアを積んだ。中学生２年生の時、全国ジュニアで１位になった。それから著名な楽団や有名指揮者と共演し、中学生ながらCDまでリリースした私には、ヴァイオリニストとしての華やかな人生が待っている、はずだった。