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｢ちょっと聞いてる〜？
ここついてるからこっち向いてって言ってるのに！｣
｢あっ…ごめんごめん、｣
｢も〜…まぁ可愛いから許してあげる｣
されるがままに指で口元を拭われる、こんなやり取りはまるで少女漫画のカップルのようでむず痒い。
必然的、いや意図的に狭めれる彼女との距離。じーっと顔を見つめられては意味が分からなくて首を傾げてみた。
しびれを切らしたように彼女は少し腰を浮かせてそのままー…
｢…っちょっ、と。｣
唇を奪われるまであと3センチという所でほぼ反射的に薄い肩を押し返すと彼女は酷く傷ついた顔をしていた。悪いのはこっちなのだろうか、俺には理解できなかったけどとにかく一言謝るしかなかった。
｢いいよ、廉くんがその気になってくれるまで私ずっと待ってるから。｣
｢…じゃあ、次俺ら移動教室だから。｣
引き攣った笑顔を必死に振りまいて逃げるようにその場を去った。
ー
｢隣のクラスの子と付き合ってたんだ。｣
反対側の校舎の彼女と別れて一人、薄暗い廊下を歩いていたら後ろから馴染み深い声が投げられた。久しぶりに聞いたような声が。
彼女と交際を始めた今でも俺の心臓は当たり前のように跳ねるのだからもうこれは末期の重病かなんかなのだろう。
｢…知っとるん？｣
もちろん、と紫耀は得意気に頷けばそのまま続けた。
｢でもねぇ、あの子はやめといた方がいいよ。勿体ないしー…｣
｢だからお前はいちいち俺を怒らせるのなんなん？そんなん言う必要ある？｣
｢あるよ、｣
不機嫌オーラ全開で威嚇したはずが紫耀の方がため息をついて俺より三歩程先へ進んだ。
ヘラヘラして俺の説教を受け流すのは日常茶飯事のことだったのに、一瞬見えた哀色の瞳で寂しげなその表情に不思議と俺は何も言えなくなってしまった。
｢…で？今日もその子と帰るんだっけ｣
前を向いたままの紫耀。
昨日までなら清々しい顔で返事をして元気良く手を振っていた所だが、今日は少し歯切れの悪い答えを出すだけだった。
そんな重たい空気を察したようにじゃあお先〜、と大きな背中が呟くとほぼ反射的にシャツを掴んだ。
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作者名：麗 | 作成日時：2020年9月2日 1時
