【実況者】黄色い糸。４【レトルト】

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今は見えないレトくんの顔色を伺いながら、落ち着くよう背中をさする。


すると背中に回された手が、さっきよりも引っ張るように私の服を握りしめて。



「Aちゃんは、優し過ぎるよ…」


いつも以上の鼻声が、耳に届いた。



顔を見ていなくても、声だけでレトくんの辛さが伝わって。


私まで辛くなる。



「きっと、俺じゃなくても…キヨくんにも、Aちゃんは、優しいんだろうね」







「……キヨ、くん…？」


聞き慣れたあだ名に、思わず自分の手が止まった。


キヨくん、聞いたことがある。何処かで、思い出せない…思い出せるようで…。



「清、川くん…」


ハッとして、小さく、小さく、声にならない声で呟く。


清川くん、確か中学の時は「キヨ」って呼ばれてた。



最初は女の子の名前かな、なんて思ってたけれど、それは清川くんのあだ名で。



もしかしてレトくんは、清川くんと知り合いなのだろうか。


別のキヨくんだと言う可能性もあるが、同い年なのもあるし、大学で一緒だったのかもしれない。



「キヨくんがね、Aちゃんのことが好きだって…忘れられないって」


「…」



清川くんは、中学時代私に告白して、振った。


なのに全く会っていなかった五年以上、ずっと私に片想いし続けたとでも言うのか。



辛そうなレトくんにも、一途な清川くんにも申し訳なくなって。


自分が泣きそうになりながら、レトくんと同じ様に、レトくんの服を握り締める。



「俺は、キヨくんの応援したくて…」


優しいレトくんだから、友達の恋は応援する主義なのだろう。


高校の時から、君の優しさは変わっていない。



「…でも…俺だって同じくらい、Aちゃんが好きで…」



その言葉は、今の私には勿体無くて、とても重く伸し掛かってくるものだった。


レトくんはそれ切り何も言わなくなって、ただ無言で肩を揺らしていた。



レトくんもキヨくんも、一度振ったはずなのに。


私みたいな、都合の良い女を好きになったところで、きっと誰も報われない。



二人共、私が知らない所で数年間我慢し、待ち続けた筈だ。


それを私の数時間で無駄にしてしまうなんて、嫌だ。





視界は歪んでいて、無意識に涙ぐんでいた様だ。


「…ごめん、俺帰るね」



レトくんは私から離れると、荷物を持ってさっさと部屋を出て行った。


さっきまでレトくんの服を掴んでいた手が、やけに寂しい。



こんなに、辛い思いをしたのは、きっと初めて。

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