【オリジナル】たいせつなひと (ページ6)

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音楽室のイスの上で体育座りをしていじけている私に、

彼は声をかけてきた

放課後になり、やっと解放された私は

委員会の仕事があるにも関わらず、

音楽室に逃げ込んだ

推薦してくれた彼、

一生懸命自分の仕事をしている仲間、

そこに来るであろう先生

誰にも会いたくなかった

一人でいたかった、

一人で泣きたかった

でも、彼は来た

「大丈夫じゃない

から

帰って」

私はそう言った

いや

それしか言えなかった

彼は黙って私の隣に座った

そして、合唱曲を歌い出した

上手とは言えなかった

でも、一生懸命が伝わってくる

「俺も、初めて指揮をやった時は

今のAちゃんみたいな感じだったよ」

「うそ、そんなのうそ」

「本当だって

てか、俺は音楽経験ないから、もっとひどかった

人の音聞いても、どこやってるかわかんないしね」

私は下を向いていたから、

彼がどんな顔をしているのかがわからなかった

でも、声色でなんとなくわかった

辛くて、苦しい日々を思い出して、

きっと、笑っているって

「俺は、音もわからないし

楽譜だってよめない

だから、いつも歌いながら練習するんだ」

納得がいった

歌詞もみずに、合唱曲を歌った彼に

私はピアノに精一杯で、歌詞は覚えていない

努力の量が違うと思った

私の努力は自己満だと気がついた

「俺でよかったら、

毎日練習付き合うからさ」

そう言ってくれた彼に

心が温かくなった

今までで、一番優しい顔をしていた