218話 ページ19
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彼女の涙は堤防が決壊したかのように溢れ出す。
そしてキッと私を睨み付けて、言葉と一緒に感情をぶつけてくる。
「私の方が先に中原様とお会いしてましたのに…!好きになったのも私の方が先でした!何故、貴方に横取りされなければならないのですか!!」
もし、中也が私じゃなくて他の女性を選んでいたら彼女と同じような気持ちを抱えていたのだろうか。
彼女と同じことを、大好きな人の大事な人を殺そうと思うのだろうか。
私には経験の無い事だけど、今の私の気持ちは揺るがない。
「好きになったのは貴方が先かもしれません。でも、彼を好きな気持ちは絶対に負けません。」
ぐっと唇を噛む女性に、もう一人の女性が寄り添った。
「手前の云う、どっちが先っつう話なら俺は手前より先に此奴と会ってる。俺が先にAを好きになった。まだ何か云いたい事はあるか。」
「っ…ありません。」
中也は私へ向かって歩いてくると、力強く私を抱き締める腕に私も応えた。
いい気分が台無しだぜ、等と呟く彼に首を傾げた。
中也は私から離れると懐から小さな箱を取り出した。
「店から連絡あってよ、取りに行ってた時にあの探偵から連絡があった。」
箱を開いて二つ並んだ指輪の一つを取り出すとそれを私の薬指に嵌めた。
指輪の嵌まった手を眺める彼は嬉しそうで、薬指にキスを落とした後、自身の左手の手袋を外して同じようにもう一つの指輪を同じ場所に嵌める。
「気が早ェけど形だけは立派だろ。」
指輪の嵌まった手を私に見せつけて笑う彼に私も一緒になって笑った。
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作者名:汎用うさぎ | 作成日時:2023年5月28日 11時