78話 ページ29
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俺と身長が変わらない筈の三上は、俺の腕にすっぽりと収まるのが不思議だ。
触らないでと拒否された先程とは違い、とても大人しく抱き締められている女に不自然さを覚える。
長い間こんな処に居た所為か、身体が冷たい。
「ごめん。」
不意に出た謝罪の言葉。
俺が云った言葉で傷付き、実行しようとする奴は初めてで、どう接すればいいのか分からない。
「…貴方が謝る必要なんてない。私も常々考えていたので。永遠の眠りにつけたらと。」
「永遠の眠りだァ?ンな莫迦云ってんじゃねェよ。」
「もう、辛いのです…。生きる価値も、意味も分かりません。だから、眠らせてください。」
三上はこんなにも脆くて崩れやすい女だったのか。
更に腕に力を込めて、三上の頭を一定のリズムでぽんぽんと撫でてやる。
それ以降、三上はずっと黙ったままで暫くされるがままに頭を俺に撫で続けられていた。
「落ち着いたか…?」
「…。」
返答がない三上から離れるとぐら、と横に倒れた。
呼吸が荒く、額、首に手を添えると熱さを感じた。
「おい!三上!」
この時間まで川の傍に居たら熱も出すか…。
放っておけと云われても病人を置いて帰る事は、俺の中に残った良心が痛む。
横たわる三上を抱き上げて移動し、車へと乗せる。
「…行っていいのか?」
俺にその気は無いとはいえ、勝手に女の家に上がり込んでもいいものか。
本部にも敵組織の社員を連れていく訳にもいかない。
悩んだ末、仕方なく俺の家に寝かせた。
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作者名:汎用うさぎ | 作成日時:2023年4月25日 22時