50話 ページ1
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安心したよ。
森さんから発せられた安堵のその一言は私にとっては驚愕としか云い様がなかった。
「私は君の笑顔を奪ってしまったからね。話をしようと云ったのは君に謝りたかったからだ。」
「え…?」
「紅葉君にも怒られてしまった。やり過ぎだと。言い訳にしか聞こえないだろうけど、君の笑顔を、これから君が得る女性としての幸せまで取り上げるつもりはなかった。」
目の前の男は何を云っているのだろうか。
頭を下げて男から紡がれる言葉に嘘は感じられないから、こんなにも私自身、動揺してしまう。
「せめて、私が長になってからでも辞めさせれば良かった。本当にすまなかった…。」
ドクドクと心臓が嫌な音を鳴らし続ける。
「…私が話に応じたのは過去と向き合う為です。
当時、私は組織の奴 隷となる貴方の為に自分の出来ることで尽くしてきました。そこには少なからず、私の意思があったのです。
そんな貴方に頭を下げられたら、私はどうすれば良いのでしょう…。」
ゆっくりと顔を上げ、眉を寄せた森さんと目が合い、今度は私が頭を下げた。
「長である貴方が部下の前で、元部下に頭を下げるべきではありません。貴方は非道に、非情にならねばなりません。昔の一つの駒に胸を痛めるのはお辞めください。
こちらこそご期待に添えず、申し訳ありませんでした。」
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作者名:汎用うさぎ | 作成日時:2023年4月25日 22時