夢�� ページ9
覚えているのは、
冷たいコンクリートの床
赤黒く、ぬくもりのある血の感触
喉の奥から絞り出したような、息の声
「オイ」
「…」
「起きろコラ」
その声に反応して目を開けると、目の前には春千夜がいた。
「…あれ、春千夜だ」
「…」
「竜胆くんと蘭ちゃんは？」
「別件で急遽仕事」
「…そっか」
ソファに腰かけた春千夜
その上に横抱きされた私が、頭を彼の胸に預けていた
「…何も怖いもんなんてねェだろうがよ」
「ん？」
「…お前ここ最近ずっとうなされてンだろ」
「…」
「まだ怖ェか」
ここへ来た次の日
知らない人ばかりだったこの部屋で、
私が一人でいることを懸念した竜胆くんと蘭ちゃんがお仕事に連れ出してくれた。
見張るだけの仕事だから安全だし、そのほうが一緒にいられるからって。
「…ううん」
「…」
「お薬飲んだ春千夜のほうが怖かった」
「あ？」
本当に彼らの背中に隠れて黙って、じっとしているだけで
怖いものなんてひとつもなかった。
でも、
急遽2人じゃないとだめな案件が入ったと、彼らの部下の人がそう伝えて
きっと危険なお仕事だったから
私を彼らの部下に預けて、いつものように頭をするりと撫でて行ってしまった。
「…ハァ」
「？」
「寝て怖ェ夢みるくれェなら夜更かし付き合えや」
「…春千夜も忙しかったでしょ、寝なよ」
「なら俺が寝るまで付き合え」
「うん」
そしたら、
竜胆くんと蘭ちゃん、二人の部下の人が
私をスパイだのハニトラ要員だの、なんとか言って
見張っていた敵対組織のアジトから出てきたテキトーな人を捕まえて
『オンナでも容赦しねぇぞ、ウチの組織は』
『よく見とけよクソアマ』
『蘭さんと竜胆さんにどう付け入ったのかは知らねぇけどよ』
『お前なんてすぐこうなるんだからよ』
引かれた引き金
打ち所が悪かったのだろう
痛みに顔を歪めて、血を流してうめいて
それは私の目の前だった
人が人を殺す瞬間なんて見たことない
彼らが危ない仕事をしていることは分かっていたし
銃声も、あのとき聞いた
だけど
『なーに勝手なことしてくれてんだァ？』
喉の奥がヒュッとなる
身体に力が入らなくて、首根っこを掴まれて見せられていたそのシーン
『は、るちよさん…』
気づけば私は、春千夜にその身体を担がれていた。
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作者名：san | 作成日時：2021年11月28日 17時
