ヒツジと狼 #tokyo-revengers (ページ10)

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ヒツジと狼⑧ ページ10

「ごめんね、遅い時間に迷惑かけて」

「んなこと気にすんなよ。迷惑だなんて思ってねぇ」

「Aちゃん、今日は泊まってくだろ～？」

「え？ううん」

「泊まってくだろ？」

「え、いやだから『泊まるよな？』ハイ」

蘭ちゃんの笑顔の圧に負けて返事をしてしまったけれど、春千夜怒るだろうな。

少し冷めた頭で思い出す。
綺麗な顔に、その頬に、返り血を浴びた春千夜の姿を。

鋭い目をしていた
はじめて、そんな目をした春千夜と目を合わせて
突き放すような言葉を突き付けて

それなのに、

私は綺麗だと、思ったのだ。

「なあAちゃん」

「ん？」

「俺らもおんなじだよっつったらどうする？逃げる？」

「？」

竜胆くんが蘭ちゃんと交替でお風呂に向かって
まだ水滴が滴る髪を放ったまんまの蘭ちゃんが問いかける。

私の頬をするりと撫でて

「おんなじって、春千夜と？」

「うん。気に入らねぇやつはぶちのめすし、そこに情なんてもんもねぇし」

「…」

「…ハハ、Aちゃん首ほっせぇ。片手で折れそ」

今度はゆらりと、私の首に手が触れる

たぶんきっと、この人は
私なんて簡単に殺せちゃうんだろうな。

「…逃げねぇの。怖くねぇの、俺のこと」

「…本音言う」

「ん」

「簡単に私のこと殺せちゃう人がいるのって、悪くないなって思った」

蘭ちゃんの手を両手で包む
その冷たい手が、簡単に私の喉から離れる

「…Aちゃんさぁ、」

「うん」

「いかれてんね」

「春千夜と一緒にいたからね」

「これからは俺らとも一緒にいようなぁ♡」

「蘭ちゃん髪冷たい」

「乾かせ～？」

そのあとはドライヤーを借りて蘭ちゃんの髪を乾かして
満足そうに笑う蘭ちゃんに抱き枕にされ、テレビを見ていた。

この人パーソナルスペースめちゃくちゃ狭いな。

「A」

「竜胆くん」

「俺のも乾かして」

「え～いま蘭ちゃんとテレビ見てんだけど～？」

「兄ちゃんだって乾かしてもらったんだろ」

「しゃあねぇな～」

メガネをかけていない竜胆くん、はじめてみた。
やっぱり二人とも綺麗な顔をしているなあ、なんて呑気に考えながらその髪に触れる。

少し前まで、ただの同級生だった人の髪
竜胆くんもパーソナルスペース狭いのかな。

春千夜は、一人で泣いていないだろうか。