ヒツジと狼 #tokyo-revengers (ページ6)

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ヒツジと狼④ ページ6

「お前マッッジでさ、」

「え、うん」

「文献探す気あんの？」

放課後の図書館
右隣に座っている灰谷くんの、呆れた顔が視界にうつる。

「あるよ。あります、ありますとも。当たり前じゃん」

「じゃあその手が持ってる本、なに」

「…話題になってたから」

「帰りに借りりゃいいだろ。没収」

するり、と灰谷くんの手に渡ったその本は、私から一番遠い灰谷くんの右隣に置かれた。

「…んな顔してっけど、悪いのお前だかんな」

「本気出す」

「はいはい」

勉強ができる人は、効率的な方法も知っている。

参考文献を見つけることが目的だったのに、灰谷くんは使えそうなページをコピーして、マーカーで線を引いて、自分がわかるように自分の考えと一緒にメモまで貼っていた。

「灰谷くんって、」

「竜胆」

「…りんどう」

「竜胆でいい。兄ちゃんといるときも灰谷くんだったらややこしいし。で？」

それもそうか、と納得する。
またお兄さんに会うことがあるのかは謎だけれど。

「すごいね。自分のやり方知ってる人の進め方だなって思った」

「…こういうの、嫌いじゃねぇしな」

「へえ」

「進んだ？」

「うん。竜胆くんのおかげ」

「そ。ならよかった」

キリのいいところまでまとめられたら帰ろう、そう言って作業に戻る。
竜胆くんに教えてもらいながらできたおかげで、昨日の私よりはるかに進行状況が激変した。

あとはこれを基にワードに打ち込んで、誤字脱字を修正したら完璧。
え？昨日までの私何してたの。
呑気にへらへらと本を読んでペンケースを忘れていた自分を思い出して、思わず頭が痛くなる。

…昔、春千夜が言ってくれた言葉を思い出した。

お前はそのままでいい、って

「こっちもう終わるけど、どう？」

「うん、私も終わる」

「じゃあそろそろ帰るか～、…兄ちゃんだ。わり、待ってて」

「うん」

ケータイを耳に当てて竜胆くんが席を立つ。

無事に受け取れたペンケース
それを指先で撫でて、意味もなくしばらく使っていない蛍光ペンを取り出して
また、しまって。

「ごめん、帰ろ。送る」

「え、だいじょ『昨日言ったこと覚えてねぇの』ハイ」

ふ、と優しく笑う竜胆くんと大学を出ると、壁にもたれかかった大きな人がこちらに気付く。

「兄ちゃん」

「お～、Aちゃん昨日ぶり～」

会う機会、あったな。