ヒツジと狼 #tokyo-revengers (ページ5)

今日:5 hit、昨日:16 hit、合計:132,962 hit

ヒツジと狼③ ページ5

すやすやと眠ってしまった春千夜に、着ていたジャケットをかける。

彼はいつもこんな風に大学に忍び込んでは

一緒にご飯を食べたり
寄り掛かって眠ってしまったり
ごくたまに興味深く私の参考書を読んでいた。

「…やっぱり手ゴツゴツだ」

春千夜は暴走族が何なのか
自分が暴走族のチーム？の中で何をしているのか
何も、私に教えてくれない。

気まぐれにこうして大学へきて
気まぐれに私の家でご飯を食べて
集会だ、って出て行って
傷をつけて会いにきて

猫みたいだから、
春千夜の姿を見ると私はなんだか安心してしまうのだ。

「…んでお前薄着なわけ」

「…」

「…は？起きろや」

「…」

「……ハァァ～～」

春千夜の体温が伝わって眠ってしまった私に
大きなため息をついて、ジャケットを掛けなおしてくれたのは春千夜で。

「……寝てた？」

「口開いてたぞ」

私はその小さな動きで目を覚ます。

「春千夜も一緒に被りなよ」

「俺は寒くねぇ、お前が着てろ」

「手冷たかったよ」

「…心があったけぇんだよ」

「昔、捨てられてた猫に傘立てかけてあげてたもんね」

「バカにしてんのか」

「エサ持っていって、可愛がってたのに突然いなくなっちゃって」

「うっせぇ」

「…悲しかったね」

無機物が何か起こらない限り動かないように
小さなころの私は、命や存在もそうだと思っていた。

「お前、アホみてぇに泣いてたしな」

「春千夜だってしばらく落ち込んでたじゃん」

「うっせぇ！」

「どっちがよ」

「帰る」

私の隣から勢いよく立ち上がって、ガニ股でずんずん歩き出すから
私は土を払ってトートバッグを手に取る。ジャケットも忘れず持って。

いつもそうだ。突然きて突然帰る。

「…オイ」

「なにさ」

「…遅くなるんだったら連絡しろ。てか遅くなんな」

「気を付ける」

立ち止まって、ゆっくり振り返って、雑に投げられたそれを受け取る

「…あったか、これくれるの」

「いらねぇなら返せ、俺もさみぃんだよ」

「さっき寒くないって言った」

「うっせぇ」

温かいミルクティー。
わざわざ買ってくれたんだ。

嬉しくて思わずニマニマしていると「キッショ！」て言いながら帰っていった。
なんなんだ。

あのとき春千夜は、猫に名前をつけなかった。