ヒツジと狼 #tokyo-revengers (ページ32)

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ヒツジと狼㉚ページ32

Side 竜胆

Aの様子がおかしいのは、思えばずっと前からだったと思う。

ボーっとしてんのは日常みたいなもんだけど
その頻度や深さが変わって、空元気も増えた。

「A」

「ん？」

「なんかあった？」

一瞬、目が揺れるのも知ってる
でも、絶対言わねぇ

何がAを追いつめているのかも
「たすけて」ってただ一言も、絶対言わねぇ。

「あ、この前レポート手伝ってくれたやつ。教授に褒められたよ」

「…おー」

「元気ないね」

俺のセリフだし、それ。

泣き顔は何度もみたし、弱ぇとこ見せてくれるのも
気ィ許してくれてる気がして、頼られてる気がして嬉しかった。

もう数週間前のことになったコーヒーの件も
ギリギリだったけどちゃんと守れて、ほっとした。

でも、大事なことはいつももっと奥にあるような気がして

「放課後、兄ちゃんが飯行こうって」

「あー、ごめん今日いけないや」

「最近忙しい？」

断られる頻度も、多くなって
勘弁してほしい。拗ねた兄ちゃんの無茶ぶりが加速するから。

「お金貯めようと思って、バイトいれてる」

「…なんで？」

「引っ越そうと思ってる」

「なんで」

「なんでなんでマンになってるよ」

「いいから」

「心機一転？そんな深い理由はないんだけどね」

Aは気付いてねぇかもしんねーけど
最近じゃ、笑う顔もさみしそうで

「…三途には言った？」

「喧嘩中」

「長くね？」

「…うん。この前もさ、」

「ん」

「連絡しなかったらいいんだ、って思って会いに行こうとしたの。病院まで」

「うん」

「そしたら看護師さんに退院しましたよ、って言われちゃった」

悲しいなら悲しめばいいのに
悲しいまんま笑うから、笑顔がゆがむ

「…きついな」

「結構クるね」

喧嘩、が原因なんかな
いやでも喧嘩したって聞いたのは先週あたりだし時期がズレんだよな

笑ってくんねーかな

そう、ふとしたときに思うくらいには、俺はきっと。