ヒツジと狼 #tokyo-revengers (ページ17)

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ヒツジと狼⑮ ページ17

目を閉じて
なんだか久しぶりに深く息を吸った気がする

いい匂い
あったかくて
やさしくて

なんだか気が緩んで泣いてしまいそうだ

「手は」

「手？」

「…貸せや」

春千夜のトレーナー、私には大きいから
余った袖の中に春千夜が手をいれて、トレーナーの中で握られる。

「…子どもの頃もよく手つないでたよね」

「お前がすぐ迷子になるからな」

「すぐどっか行っちゃうのは春千夜でしょ」

「しょっちゅう泣いてたやつに言われたくねぇ」

「そんなに泣いてた？」

「びーびー泣いてただろうが。さっさと寝ろ」

「うん。…春千夜、」

「…おやすみ、な」

「…おやすみ」

短い時間の中で、久しぶりにぐっすり眠ることができた。

だから弱っていた心も強く、元通りになったと思っていた。

春千夜飯なに

A餃子。くる?

春千夜いく

数日後

LINEも無視し続けていたらこなくなって、ホッとして

きづけなかった

嵐の前の静けさだということに。

「A」

「ん？」

「出るぞ」

「え？」

結局、その日春千夜はこなくて
一度連絡してみたけれど返事もなくて

特に気にしていなかった。まあいっか、って。

お昼来るだろうし、そのときに食べられるように餃子、持ってきたから。

「行くぞ」

でも次の日の朝、竜胆くんがケータイを見たあと私にそう言って
まだ講義中だというのに席を立って、私の腕をつかんで歩き出した。

「え、竜胆くん？まだ講義中『荷物は後で持ってくから』」

状況が呑み込めなくて
でもいつもと雰囲気の違う竜胆くんについていくしかなくて

だから、余計にわからなかった。

「出たとこに兄ちゃんいるから。俺も後から行くし」

「何が？どうしたの？」

「三途が、」

校舎を出て、人がまばらな道で立ち止まる

まただ
心臓が、嫌な音を立てる

「意識不明の重体で病院に運ばれたって」

昨日はうまくできた呼吸なのに
あれ、どうやって呼吸してたっけ？

「な、なんで？喧嘩？」

「…」

「りんど、くん」

「…夜道で襲われたらしい」

喧嘩じゃないのに、なんでそんなことになるの

うまく言葉がでてこなくて
うまく、呼吸もできなくて

苦しくて、痛くて

代わりにでてきたのは震えと涙だった。