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入院生活に慣れてきた頃に、またジュリウスが見舞いに来た。聖域で育てたという野菜を持ってきてくれたので、目の前で食べて感想を告げた。彼は今後も農業を続けていくようだ。
「そこでなんだが、良ければAも一緒にーー」
「A!」
「え…ロミオ…?」
ジュリウスの話を聞いていると、突然扉が開き、ロミオが入ってきた。久しぶりに見た彼は、別れた時と何も変わらない、ロミオのままだった。
「…A、俺は少し外そう。何かあったら呼んでくれ」
何かを言おうとしてやめるを繰り返すロミオを見て
ジュリウスが席を立つ。ロミオの肩に手をぽんと置くと彼は病室を出ていってしまった。残された私とロミオは視線を交わすことなく、言葉を待っている。話さなければならない。それは私だってわかっている。でも逃げた自分に、そんな資格はないと、そうずっと、思い込んでいたから。何を話せば、いいのだろう。
「…あ、えと………椅子座っていい?」
「うん…」
言葉を選んでいる。それがよく伝わってくるから、頷かざるを得ない。彼の血の力は対話。私に時間をかけて、ゆっくり、何かを伝えようとしている。それがどうしようもなく、嬉しくあり、虚しくもあった。
「A、俺さ…やっぱ選べないや。選べないからこそ…二人のこと、同じくらい大事だって思ってる…」
「…わがままでごめんね」
「違うんだよ!A…違うんだ…。俺、それでも好きなのはAだから…これからもこの先もずっとAしか好きにならない…!別れたくなんかない…」
ロミオがそう言いながらぎゅっと拳を握るのが見えて私は笑みが溢れる。ああ、私はーーどうしようもなく、この人が好きだ。
「ロミオ、ありがとう。私も、ロミオのこと、大好きだよ。本当は別れるのだって嫌」
「なら…!」
「でも無理だよ。私はリヴィさんと同じくらいに並べられたくない。もっとずっと大切に思って欲しい。ごめんね、めんどくさいよね…私も辛いの…こんな自分が嫌で仕方ないの…これ以上ロミオの恋人でいたら私、きっとあなたの何もかもを縛ってしまう…そんなの、嫌…私、自由なロミオが好き…好き勝手して、人の心に入り込んで一緒に笑いあってくれるあなたで居て欲しい…お願い、わかって…」
シーツを手繰り寄せ、必死に言葉を紡ぐ。沈黙が流れる。私のすすり泣く声だけが響く。そうして何分経っただろうか。ロミオが、口を開いた。
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作成日時:2021年11月28日 0時