飴と狼くん。【馬狼照英】

◆飴9個目 ページ10

「A〜飴ちゃんプリーズ！」
「あーはいはい、何味？」
「Aちゃん、クッキーあげるから飴恵んで〜！」
「マジ？あげるあげる、2個あげるわ」

ポケットの中を漁り、キャンディを取り出す。


体育祭の練習期間に入ってからというもの、あたしは何故か毎日のようにクラスの人達からお声がかかるようになっていた。

あたしが飴を大量に持ち歩いている事がいつの間にか噂になったらしい。
まぁ疲れると糖分欲しくなるだろうし、人に飴あげるのも嫌いじゃないから良いけど。


「名月ー、飴持ってねーの？」
「お前もか。ちょっと待って」

隣の席のうっさいやつまで要求してくる始末。

ジャージのポケットに手を突っ込んで探してみるが、棒付きの飴しか残っていなかった。

「あー、棒付きのやつしか残ってないから無理。」

「何で？棒付きはあげられない的な？」

「…棒付きは特別な人にしかあげないから。」

そう伝えると、「なんじゃそら」と言って彼は呆れた顔をしていた。
棒付き飴は馬狼専用。この間からあたしが密かに決めているルールだ。



「おい」

背後から好みの低い声が聞こえてきて、あたしの心臓は大きく跳ね上がった。

「な……なに、どしたの馬狼」

平静を装うようにゆっくりと振り返る。
そこには予想通り、馬狼の姿があった。

「リレーの練習行くぞ。」


「え…あ、うん。オッケー。」


何だその返事？自分でも分かるくらいぎこちなかった。



(ヤバい…さっきの聞かれてないよね…！？)

棒付き飴は特別な人にしかあげない。先程の発言を思い出した途端、一気に顔が熱くなった。

もし聞かれてたら絶対引かれてるわ……。どうしよう……。


「早くしろよ。」
「はいはい、分かってますよー……」

馬狼に急かされて、あたしは渋々立ち上がった。

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