飴と狼くん。【馬狼照英】

◆飴38個目 ページ39

待ち合わせの当日。

あたしは約束の時間より30分ほど早く駅に着き、ベンチに座って待っていた。

(ヤバいヤバい、この服変じゃないよね…？髪も崩れてない？表情筋バグってない？どうしようどうしよう…)


もうすぐ馬狼に会える。

心臓がバクバクして、全身が熱い。

もう飴を食べている余裕すら無かった。


「よぉ」

「ひゃっ！？」

背後から肩を叩かれ、思わず変な声が出る。

予想通りと言うべきか、振り返るとそこに居たのは、ずっと会いたくて堪らなかった人。


「……おい、返事しろよ」

「へ、あ、うん。おはよう……？」
「おう。」

久しぶりに見る馬狼は相変わらずかっこよくて。
向こうでたくさんトレーニングしたのだろう、前より筋肉が付いていて、男らしくなっていた。

心做しか少し浮ついているようにも見えるが、それはきっと気のせいだろう。


「……何だよ」

「いや、別に何でも……てか早くない？来るの…まだ10時前だけど？」

「あ？…早く着いただけだ。つーかお前こそ何でもう居んだよ」

「…！！そ、れは……まあ、色々あって」

まさか楽しみすぎて早く来ちゃったなんて言えない。そんな事言ったら絶対キモいとか思われる。

「ふーん。」

…試合見てたよ。凄いね。カッコよかった。

一番言いたい事が喉まで出かかってるのに、恥ずかしさが邪魔をして言葉にならない。

「今日…どこ行くの？」

とりあえず話題を変えてみると、馬狼は「はぁ？」とでも言いたげな顔であたしの顔を見てきた。


「テメェが言ったんだろ、二人でボーリングとか映画とか行きてぇって。」

「あ……」

言われてみたら確かにそんな事を言っていたような。

「意外とあたしの事考えてくれたんだ…」

「…はぁ！？違ぇよ…たまには俺の息抜きに付き合わせてやってもいいと思っただけだ！」

顔を真っ赤にして必死に否定する馬狼を見て、愛おしさが込み上げてくる。



…無理、やっぱり諦めらんないんだけど。

悲しいほどに、馬狼以外を好きになる未来が見えない。

「そっか、あたしは少し…いや、めっちゃ寂しかったよ？」

あたしがそう言うと、馬狼は目を見開いて驚いた後、照れたのか視線を下に向けた。

「チッ……調子狂う…！」

そして小さくそう呟くと、あたしの手を握って歩き出した。

「！？！…ちょ、手…！！何！？」
「黙れ。迷子防止だ。」

そう言ってあたしを引っ張る馬狼の耳は赤くて。
それが無性に可愛くて、あたしは抵抗する事なく手を繋いだまま歩いた。

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