飴と狼くん。【馬狼照英】

◆飴18個目 ページ19

保健室に着くと、中は無人だった。

馬狼はあたしを椅子に座らせると、棚の中から湿布を取り出し、あたしの前に立つ。


「え、貼ってくれるの？」

「他に誰がいんだよ。黙ってじっとしてろ」

馬狼はあたしの右足を手に取り靴下を脱がせると、丁寧に湿布を貼り始めた。

「痛いか」
「うん、割とマジで痛い。」
「なんで無理して走ったんだよ。誰かに代わって貰えば良かったじゃねぇか」
「……あたしがちょっと我慢すれば済む話だと思って。」
「アホか。それで悪化したらどうするつもりだよ」


馬狼の言う通りだ。結果、そのせいで迷惑をかけた訳だし。

「……ごめん、次からは気をつける。」

「当たり前だバカ。」


馬狼はあたしの足を離すと、今度はあたしの目の前に立ち、突然腰を屈めた。



「……へ」

そしてあたしの頭に何か暖かいものが触れたのだ。

「……なっ、ななっ、」


驚きすぎて言葉にならない声しか出ない。

…今、馬狼があたしの頭を撫でてる……！？


「ご褒美だ」

「ご……っ！？」

「途中で諦めなかった事だけは褒めてやるよ。」

「あ、ぅ……」


頭から伝わる体温が心地よくて、身体中の力が抜けていく。
ぎゅぅぅぅっと胸が締め付けられるような感覚に陥った。



「ッ………勝ってくれてありがと…。」

「別にお前らの為じゃねぇ。俺が圧倒的な力を周りに見せつけるいい機会になった。それだけだろ」

「……ふはっ、そのセリフめっちゃ馬狼らしいわ。」

あたしは小さく笑って、彼の顔を見上げた。

窓から差し込む日差しが眩しいのか、少し目を細めて遠くを見ている馬狼。

ああ、好きだなぁ。

「…ありがとね」

再び顔を伏せて呟くと、馬狼は小さく笑った気がした。

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