傷だらけ二年生が友人に囲まれるまで (ページ9)

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「入るわよ」
「ヴィル、急な呼び出し悪いな」
「こっちの寮生の事でしょ、構わないわ」

ヴィルは「それより」と続けてソファーに近づく
座っている寮生は確かに自寮の寮生
あの就寝時間を守らない２年生ね、とヴィルは頭の中で確認した

「ねえ、アンタ。テル・メルゴートね？」
「…りょうちょう」
「そうよ。トラブルに巻き込まれたって聞いて来たわ、帰るわよ」
「かえる、帰る、お、うち？」
「…？寮よ、アンタの部屋。分かるかしら？」

不安そうにこちらを見上げるテルにヴィルは眉をひそめた
就寝時間について注意しても「気を付けます」と言うだけ
いつも一人で行動していて話しかければへらっと笑う
前髪やら包帯やらで覆われ、目の下には薄らと隈がある
しかし顔立ち自体は綺麗なもの
ヴィルとしてはそんな感想を向けていた
まあ手入れすれば光る生徒の一人、くらいの認識である

「テル、帰って休んだ方が良い。立てるかい？」
「ん…」

リドルの言葉に項垂れていたテルはふらりと立ち上がる
覚束ない足取りが不安だが歩ける程度にはなったらしい
ヴィルも危なっかしく見えたのか腕を掴んで支えた

「リドル、アンタこの子の友達らしいわね？」
「はい、クラスメイトで友人です」
「なら今後の容態は連絡するようにするわ、落ち着いたら見舞いにでもいらっしゃい」
「ありがとうございます、もちろんです」

幾分か必死そうなリドルの声を聞いてヴィルは２人は仲が良いと察する
事情は分からない上、これといって関わりのない寮生
だが憔悴しているらしい姿を見て何もしないほどヴィルは冷徹ではない
テルと同室の生徒は誰だったか
その相手に任せるかそれとも自分で面倒を見るか
そこまで考えて彼と同室の寮生の顔を思い出す
ついこの前、転寮したばかりだ
確かオクタヴィネル寮に居る
元々がアズールたちのように海出身の人魚でやっぱり海が合うからと出て行った
だから今テルは一人部屋だ
とにかく連れて帰ろうとハーツラビュル寮の面々に礼を言って寮に戻る
廊下を歩くときも時折ふらつくテルには冷や冷やさせられた
体調に問題無いとは思うがメンタル面に不調をきたしている
倒れられたらたまったものじゃない

「部屋に戻ったら今日は寝る事、分かったわね？」
「お勉強、しなきゃ」
「その状態でやってどうなるの、大人しくなさい」

ぴしゃりと言い張ったヴィルは足を進める
部屋の前につく頃には半分引きずるようになっていた
ヴィルは小さくため息を付いて部屋のドアを開けた