傷だらけ二年生が友人に囲まれるまで (ページ15)

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黒い後ろ姿にエペルは「あ」と小さな声を出した
片足を引きずっているその相手はそう早足じゃない
ささっと追いついて横に並ぶ

「あの、こんにちは、テルサン」
「フェルミエさん。こんにちは、どうしたの？」

相手、テルはエペルを見て微笑んだ
最近知り合ったポムフィオーレ寮としては少し風変りな2年生
ヴィルに呼び出されて指導される時に偶然出会った先輩だった
揃って美容についての知識を叩き込まれたのである意味同士だ
そして初対面時、ヴィルから

「事情持ちだからたまに声をかけて」

と言いつけられている
事情とやらは深く知らない
でも本人は何故か包帯だらけで何となく危うげな人物
無視する理由も無い上少しだけ気になる
それに監督生たち同級生から名前を聞いた事があった
体が弱いのかも知れない、何か持病があるのかも
と聞いていたがエペルの目にはあまりそう見えない
ちょっと大人しめで穏やかな話しかけやすい先輩
そのくらいのイメージだ

「用事って程でも無いんですけど見かけたから挨拶に」
「そっか。そんなにたくさんプリント持ってるのに来てくれたんだ」
「へへ、次の授業で使うみたいなんですけど頼まれちゃって」

エペルはいまプリントの山を持っている
たまたま出くわしたトレインに頼まれたので移動ついでに運んでいた
授業の出席者全員分なのでそこそこの量はある
それでもエペルとて運動部の男
紙の山を持つくらいなら簡単だ

「半分手伝おうか？ぼく、力はないけど半分ならできるよ」
「いや、これくらいなら全然。筋トレだってしてますから」
「すごいなあ。フェルミエさんは力持ちなんだね」
「ふふふ、テルサンも力作業があったら頼ってくれて良いんですよ」
「かっこいいねえ」

テルの反応にエペルは「ふふん」と自慢げに笑う
この先輩のこういう発言が気に入っていた
テルはきっとエペルの事を『かっこいい』と認識している
お世辞じゃなくて純粋に言ってくれている
寮ではか弱い存在だと思われていた
荷物を持てば代わりに持つからと取られ
歩いていれば姫だの何だのと呼ばれ
そんな風に扱われてエペルは不満だった
マジフトで鍛え、走り込みもこなしている
力だってその辺の上級生より強いはずだ
それなのに…と思っていたところでテルと出会った
タイミング良く現れた自分を認める存在にエペルは上機嫌である

「授業、ぼくも行かなきゃ。お互いがんばろうね」
「はいっ！テルサン、また」

エペルは手を降ってテルと別れる
足取りは実に軽かった