傷だらけ二年生が友人に囲まれるまで (ページ13)

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「ああ見つけたよ、ムシュー・黒ヤギ」

ルークは目当ての生徒の背後でそう言って微笑む
該当の生徒は長い黒髪を揺らして「え？」と振り返った
煙のような鈍い銀色の目がルークを見ている

「テル・メルゴートくんで間違いないね？」
「え、はい、えっと、黒ヤギ？」
「君の部屋、窓辺でいつも留守番をしているお人形が由来さ」
「ああ、ぬいぐるみの」
「あれは君のお気に入りかい？」
「はい、ぼくが作ったので…」
「トレビアン！実に素晴らしい腕だ！」

あの黒ヤギのぬいぐるみは手作りか
ルークはそう知って称賛の拍手を送る
当の本人は照れたように笑いつつ首を傾げた

「えっと、副寮長、ぼくに何かご用なんですか？」
「ああ。ヴィルから呼ぶように言われてね、一緒に来てくれるかい？」
「あ、そうなんですね。分かりました」

頷いたテルの前でルークは「さあ行こう！」と歩き出す
美しい相手の所へ美しい者を連れて行く
これは名誉ある事だ
ルークは誰と歩いていてもそんな事を考える
そのためいつでも上機嫌だった

「あの、副寮長。何のお呼び出しなんでしょう？何かしましたか…？」
「いやいや、ヴィルは怒っている様子は無かったよ。安心しておくれ」
「よ、良かった、ぼく何か悪いことしたのかと」
「君の素行は問題ないさ。場には私も立ち会うよ、大丈夫」

麗しのヴィルが彼を呼んだ理由をルークは察している
最近テルの事を話していたからだ
他でもトレイが部活中に寮での様子を聞いて来たこともあった
その2人から名前が出るのだからルークの興味も引く
なのでここしばらく観察していた
親しい友人は薔薇の君リドル・ローズハート
出身地は恐らく輝石の国東部辺り
日付が変わっても就寝せず
起床時間は不明
食事量は非常に少ない
身長から考える適正体重も大きく下回っているように見える
体中の包帯の下は不明、毎日変えているらしい
ルークの観察結果はこうだった
これを機に会話もしやすくなって謎が減る
交流を持ち、より深く知る
ルークの楽しみは増えるばかりだ

「副寮長、楽しそうですね」
「ああ、ああ、そうとも。楽しみな事が増えたのさ！」
「副寮長の楽しみな事って何ですか？」
「それはもちろん、美しいものに近づけることだよ」
「確かに、寮長に会えるなら嬉しいですよね」

テルはにこにこと笑って同意する
自分のことだとは露ほども思っていない姿
それが更にルークの興味を搔き立てた
微妙にすれ違いつつヴィルの部屋の前に着き、ルークは恭しくノックした