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牙が肌を突き破る痛みに思わず顔をしかめる。
私の血が1滴、彼の舌に落ちた。
すると、せきを切ったようにガブリと私の腕を咥える彼。そのままジュルルと血を啜る音が私の中に響いた。
我を忘れて私の血液を貪るまふを、本当に吸血鬼みたいだと思った。でも不思議と怖くもないし嫌悪感もない。
きっと私は仲間のことなら何でも受け入れられるのだろう。彼の傷が少しずつ治って行くのを見ていると、ズキズキと痛む腕なんか気にならないのだから。
まだまだ傷は治っていないのに、私の腕から口を離すまふ。
『まだ飲んでいいよ。私なら大丈夫だから』
彼の瞳は虚ろで、感情を読み取ることは出来なかった。
ガッと引き寄せられる。強い力で雑に抱き締められて、首元に牙が当たる感覚がした。
首元から血を吸われることは経験が無い。予想出来ない痛みに目を瞑る。
痛みはいつまで経ってもやってこなくて、私の後頭部と背中に回っている彼の腕に力が籠った。
『まふ、大丈夫だよ。飲まないと助からないかもしれないんだから、飲んでよ、』
彼のサラサラな髪に触れる。首元に当たっていた牙が、肌を突き破ることなく離れた。
顔を上げた彼と目が合う。先程の虚ろな瞳とは違い、紅い瞳がゆらゆらと揺れていた。
「僕は、、人間だよ。」
『うん。』
「Aの血を、これ以上、、飲みたく無い。」
『でもっ、』
「ヘェ、、仲間の血ィ吸って回復すんの?」
急に聞こえた声に振り返ると、一般市民であろう死体を片手で掴んでいるnqrseが立っていた。吸血鬼に掴まれているその人は、今迄何度も見てきた死体と同じ状態だった。
そう、身体中の血液を抜かれているのだと、ひと目見て嫌でも分かってしまった。
戦闘中は一般市民を避難させるから、今捕まえたとは考えにくい。大方、最初に私達を誘き寄せる為だけに殺した死体から血を吸ったのだろう。
先程私が切り落とした腕が元通りになってはいるものの、まふに刺された腹部や、その他の傷等はそのままだ。優先的に腕を治したのかもしれない。
どちらにせよ、今の状況なら私1人でもnqrseと闘える。
『私、nqrseを殺らなきゃ。まふは少し休んでて、』
彼にもっと血を飲ませたかったのだけれど、今はそれより吸血鬼退治が優先だ。
地面に置いてあったすーちゃんを拾う。
『吸血鬼が吸血鬼を倒すとこ、私に見せてよね』
意志を持っているのかも分からない武器に、そう話し掛けた。
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とこ(プロフ) - こゆきさん» 嬉しいです、ありがとうございます!遅くなり申し訳ないです、続編もよろしくお願いします。 (2022年9月22日 11時) (レス) @page50 id: f32dc7a6dd (このIDを非表示/違反報告)
とこ(プロフ) - ばななさん» わざわざログインして頂き、嬉しいです、!ありがとうございます。遅くなりましたが、続編もよろしくお願いします。 (2022年9月22日 10時) (レス) id: f32dc7a6dd (このIDを非表示/違反報告)
とこ(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます、お待たせしてすみませんでした、。 (2022年9月22日 10時) (レス) id: f32dc7a6dd (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - 続編待ってます… (2022年8月6日 23時) (レス) @page50 id: b05dbfc063 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - めちゃくちゃ面白い!!!普通にハマったw (2022年4月27日 17時) (レス) @page50 id: 405c20d148 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とこ | 作成日時:2021年6月6日 17時