30.キミを知らない ページ32
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「はぁーーー」
鬱々な気分だった。
まず海外任務ってだけで鬱だった。
言葉が通じない。食べ物の文化が違う。知り合いがいない。ひとりぼっち。
私の嫌いが詰まってる。
そして、例のDVD。それをこれから返しに行かないといけない。
疲れた体をひきづって、麓まで降りるのか……。
スーツケースをガラガラと引きながら、寮に入る。
やっとの思いで、部屋に着くとドアを開ける前に二個先のドアが開いた。
「せんぱーい。やっぱ先輩の帰ってきた音だ」
「あ、硝子ちゃん」
「お帰りなさい。海外任務ご苦労様です」
可愛い後輩の前に目尻が緩む。
パタパタと寄ってきた硝子ちゃんに海外のお土産を手渡した。
廊下で立ち話もなんだし、とりあえず私の部屋に入ろうかと思って、約一週間ぶりの自室のドアを開ける。
「あれ??」
ドアを開けて違和感に声を出した。
私の後ろで硝子ちゃんがどーしたんですか?とひょこりとドアから顔を覗かせる。
「いや、置いておいたDVDがなくなってて」
確かテレビの横に積んでおいたはずだ。
でも、なくて、他を見渡してもみあたらない。
私の部屋は基本的物が少ないから、見落とすなんてことはないはずだ。
「あ、それなら悟が返しに行ってましたよ」
しかも、俺は先輩の部屋勝手に漁れないからって態々私のこと呼び出して。
そう続けた翔子ちゃん。
「私、悟に電話したら「面倒くせぇ」ってブチギリされたんだけど」
「あ〜、アイツ天邪鬼ですから」
「あまのじゃく……」
DVDを返しに行ってくれた。
しかも、普段は当たり前のように私の部屋に居座るくせに、部屋の主がいないと勝手に女子の部屋には入れないと、気を使う……。
悟の意外な一面を見た気がした。
悟は自我が強く横暴なくせに、周りをよく見ている。
……彼の育ちの環境がそうさせたのかもしれないが、周りの機敏に敏感だ。だから普段分かってて煽っている風潮が強い。
けれど、その性格をこう回すこともできるのか。
「……今度ごめんっていお」
「アイツはありがとうっていった方が喜びますよ?」
「そーなの?」
「A先輩に甘いですから」
「へー」
お土産を渡すときに、「ありがとう」と言おうと心に決めた。
重い体を引きずって麓まで降りずにすみほっと肩の力を抜いて、ラグの上に腰かけた。
取り敢えず今は、可愛い後輩ちゃんに癒してもらおう。
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かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時