44.海祇の亡き声 ページ46
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「なぜ急に、被害が出始めたんでしょう。
信仰は遠い昔から続いていたのに」
良い目の付け所だと、ふんふん頷く。
そもそもこんな古めかしい信仰なんて廃れていくのがこの世の中の現状。
神格化された呪いの化現なんて本来はあり得ないのだ。
しかし現代に綿津見は現れて、沖に出た船を沈めているという。
「そもそも、綿津見は海や雨、水の神であって厄災の神ではないはず」
二人が首を傾げる中、私は空を見上げた。
夕焼けだったはずの海岸はいつの間にか日が落ちそうになっている。
情報通りだと、そろそろ行けるはずだ。
「残念だけど、タイムリミットかな。
そろそろ祓うよ」
「え、でも呪霊の気配なんて感じませんよ?」
「日が落ちてきたからそろそろだよ。
沈む船が見つかるのはいつも日が昇ってから。つまり、呪霊は夜にしか現れない」
日が落ちるにつれて、穏やかだった海にだんだんと波が押し寄せる。
凪のうみはきえた。
まるで、神の怒りを表しているかのような。
「……、っ海が荒れて呪いの気配が」
七海くんのいう通り高くなる波と比例するように呪いの気配が濃くなる。
これは一級に届くかなぁと、口の端をペロリと舐めた。
「二人とも帳は下ろせるの?」
「いえ、まだ…」
「了解。
結界術は難しいからね。素質もある程度必要だし」
軽く組んだ手印を振ると空が闇に染まる。
例えるなら星の見えない夜空だ。
「◼▪▪▪▪◾◾◾◾◾◾◼!!」
それは文字にも音にもできない《啼き声》だった。
聞くだけで心を直に揺さぶられる《声》。
とっさに呪力で耳を覆うも、後ろ二人は顔をしかめて手で耳を覆っていた。
改めて目を向けると姿はまるで大きな鯨のようだった。闇を纏った大きな鯨。その姿は揺らめきあやふやで、覚束ない。
少し前に出て、もう一度手印を組んだ手を振るう。
海岸に立つ私と海に浮かぶ綿津見。その二人だけを囲んでもう一枚の結界が降りる。
「霜宮先輩!」
「君たちはそこで見学ね」
顔を向けずに後ろに向かってひらひらと手を振る。
相手は足場のない海の上。
明らかに武が悪いけれど、まぁ私には関係ない。
私は海岸の堤防を飛び降り荒れ狂う海の上に立った。
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かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時