20.おとなとこども ページ22
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冬はどうも調子が出ない。
個人が持つ術式は千差万別で、季節とか気候に左右される人もいるらしいが私は別だ。
今日も新聞の天気のところを赤ペンで印をつける。
胸の辺りが苦しくて、爪を立てるように掻き毟った。
この苦しみの原因はわかってる。
そして、今の私ではどうしようもないことも。
「A先輩、どこにいくんですか」
寮を出ようとして、声をかけられた。
振り返ると部屋着姿の傑が飲み物片手に立っている。
今日は学校もない、任務もない久々のオフの日だ。
……、実際は今日がオフになるよう任務をうまく調節したのだが、きっと誰も気がついていない。
傑の目は私ではなく、私が持っている花束を見つめていた。
そんなに私には花束が似合わないだろうか。
「…………」
何も言わずに笑うと彼はあからさまに顔をしかめた。
持っている花束は【シオン】の花だ。
紫色の小さい、可愛らしい花。それを束ねた、そこまで大くもない花束だった。
紫苑は仏花にも使われる。
きっと彼は知っているのだ。
この花に、込める思いを。
【追憶】、そして【君を忘れない】。
故人を忍ぶ、悲しい花だ。
「夜には戻るから。行ってきます」
何か言おうと口を開いた傑を置いて、寮を出る。
……彼らをこんなに突き放すような行動をしたのは初めてかもしれない。
それでも、今日ぐらい許してくれないだろうか。
あの人の死んだ日なんだ。
そんな心の余裕は、どこにもない。
冷たく澄んだ空気は、空虚だ。
足取りは遅い。
ただえさえ広い敷地の学校を、ノロノロと歩く。
外に出るために校門前の階段を降りて、それから少し歩いて最寄りの駅に行こう。
任務でもなんでもないんだから、補助監督員さんを足に使うこともできない。
それよりも今日は、誰とも会いたくない。
会話をしたくない。
逃避でもいいから、過去の思い出に浸りたい。
やっと、結界の境目である校門につく。
そこに大きな人影があって思わず足を止めた。
綺麗なくせに目つきの悪い、その目で見つめられる。
「…………、そこどいてよ」
思ったよりも冷たい声が出た。
悟への字にした口も、その目も何を考えているのかわからない。
「イヤだ。
傑からお前を足止めしろって言われてるからな」
手の中で転がる携帯を見せつけられた。
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かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時