No.05 半分こね ページ5
＊
「焦凍を保育園や幼稚園に行かせていないので、友達を作る機会がないんです。こうやって公園に連れてきても、あの子しり込みしちゃうから、なかなか……」
「それなら、どうしてうちの娘に……」
「さぁ……。きっと、Aちゃんが一人だったからでしょう。複数で遊んでいる子供達だと遠慮するんだと思います」
「そうですね」
そういう轟焦凍の母は嬉しそうで、しかし切なそうでもあった。自身の息子の、楽しそうな姿を見つめる彼女の瞳には悲壮感が漂う。
その様子に疑問感を抱いたAの父は質問しようとしたが、思いとどまって口を噤んだ。他所の家庭の事情に首は突っ込めない、と。
「楽しそう……。焦凍のあんな姿、初めて見た」
「……」
* * *
焦凍と友達になったAは、あの日勝己がしてくれた様に焦凍の手を引いた。
しかしAは、この先どうすればいいか分からず、頭を捻る。そして手に持っているものに気が付いた。
「しょうとくん」
「？」
「これ、いっしょにたべよう？」
そう言って、ドーナツを焦凍に見せる。
「それは？」
「これはね、ドーナツっていうの」
「きいたことある」
「たべたことないんだね」
食べかけのドーナツだが、直接口につけてはいないのでAは大丈夫だろうと考えた。
焦凍はどうやらドーナツは初めてらしい。それに、このドーナツはAにとって絶品といえるものだ。友達にも食べて欲しいと思った。
そして、美味しいものを一緒に食すと仲が良くなる、と思いついたのだ。
「でも、それ……」
「くちつけてないよ？」
「あ、ちがくて、その」
「だいじょうぶだよ。ちょっとたべちゃったけど、こうすればはんぶんだから」
ほら、と４分の３のドーナツのうち、４分の２をとって焦凍に渡すA。
「ぼくのじゃないから、こんなにもらえないよ……」
受け取っても、遠慮がちにそう言って食べようとしない。
そういうことかと気が付いたAは、友達の焦凍に自分の想いを伝えることにした。
「わたしたちは、おともだちだから」
「……おともだちだから？」
「そ。だから、はんぶんこね」
「！ う、うん！ はんぶんこ!!」
Aの気持ちが伝わり、笑顔になった焦凍は渡されたドーナツの欠片を美味しそうに食べた。
それからAと焦凍は、ブランコや滑り台でいっぱい遊んだ。
焦凍とAが遊んだ時間は、彼等の宝物になった。
＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 455人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サブとバラ(プロフ) - １ちゃん様、うなﾁｬ様、麗紅花様。レスを長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。コメントしてくださり、本当にありがとうございます！そろそろ更新を再開する予定でございます。そのときには、また応援していただければ幸いです。 (2021年3月24日 22時) (
レス) id: 4ca3bc2d2a (このIDを非表示/違反報告)
麗紅花(プロフ) - はじめまして。あなたが書いた小説を読んで最高でした。何よりも可愛らしくて、微笑ましくて、同時にちょっぴり切なくて良かったと思いました!続き、楽しみに待っています。 (2020年7月31日 21時) (レス) id: b338802f9d (このIDを非表示/違反報告)
うなﾁｬ - 面白かったです。楽しみに待ってます() (2020年6月21日 21時) (レス) id: 6b728aedaa (このIDを非表示/違反報告)
１ちゃん - とっても面白かったです!更新よろしくお願いします! (2020年5月24日 12時) (レス) id: 43879a9f7a (このIDを非表示/違反報告)
リヴ - いえいえ！！私も早まったコメントをしてしまい、申し訳ございません！！ (2020年5月23日 16時) (レス) id: 9de3fc0d23 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サブとバラ | 作成日時：2020年4月23日 23時
