過去 ページ8
2日間ほど戻って来られるか、と親から連絡があったのは突然だった。
なぜかと理由を問うと、葬儀に参列してほしい、と言う。
何でも、親と親しくしていた友人夫婦が亡くなったらしい。本来ならば両親が葬式に参列するところ、予定日にどうしても外せない用が入ってしまった。しかし香典だけで済ませる訳にはいかない。そこで俺に白羽の矢が立った、という訳だ。俺との直接の関係はないが、ここは礼儀として通夜と葬式に出るべきだろう。
了承の意を返し、日程と時間帯を手近な紙にメモする。
冬が始まってすぐのことだった。
空港から出ると冷たい風が頬を刺した。冷えた空気を肺いっぱいに吸い込む。東京と北海道の寒さは、質が違う。久し振りのそれに懐かしさを感じながら、タクシーに乗り込んだ。
斎場にはすでにぱらぱらと人が集まっていた。先に到着していた兄と合流し、中に入る。人数は多くなく、知っている顔も見受けられなかった。
式場に移動した時、目に入った光景に思わず足を止めた。
1人の子供が、棺桶の前で突っ立っている。歳は10歳前後といったところか。黒いワンピースに身を包み、ぼんやりと遺影を眺めている。
「娘さん、だって」
隣の兄が耳元でささやいた。
「一人っ子だったみたい。事故には巻き込まれなかったらしいけど…」
「ふぅん。名前は?」
「Aちゃん。親父から聞いた」
「かわいそうにな」兄はほとんど聞こえないくらいの声量でぽつりとつぶやいた。
少女の肩を祖母らしき高齢の女性が抱き、イスに座らせる。少女はされるがまま、といった感じ。その目に光はなかった。
急なことで混乱しているのか。それとも、そもそも死という概念を理解できていないのか。
少女と目が合うことは1度もなかった。
156人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
時代(プロフ) - 牧野さん» 最後までお付き合いいただきありがとうございます!続編や次回作については今のところ白紙ですが、余裕ができたら書いていこうと思いますので、その際はよろしくお願いします(´▽`) (2021年5月17日 7時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
牧野 - 完結おめでとうございます!終わっちゃうのが寂しいくらいとても面白かったです。続編とかあったら嬉しいですが、無理はせずこれからも頑張ってください(≧∀≦) (2021年5月16日 22時) (レス) id: 90b419fcc1 (このIDを非表示/違反報告)
時代(プロフ) - あみさん» コメントありがとうございます!もう少し続く予定ですので、お付き合いいただければ幸いです(^^*) (2021年4月6日 7時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
あみ - 面白いです!応援しております!頑張ってください!! (2021年4月6日 0時) (レス) id: 6eb6482913 (このIDを非表示/違反報告)
時代(プロフ) - くるみさん» 私にはもったいないほどのお言葉…!本当にありがとうございます。前作もお読みいただき、嬉しい限りです。ご期待に沿えられるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2020年10月27日 22時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:時代 | 作成日時:2020年10月17日 16時