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本当の ページ38

風が吹く。花が揺れる。卒塔婆が音を立てる。どこかの香炉から線香の煙がふわりと上がって、懐かしい匂いが鼻をかすめた。

Aは花立に仏花を供え、俺は濡らした布で墓石を拭くのに徹した。手が凍るかと思うほどに冷たい。しかし手を抜くわけにはいかない。今一度コートの袖をまくって、布を強く絞った。

「ほらA、線香」

「うん、ありがとう」

一通り終えた後、火をつけた線香を香炉に置いた。ゆるやかな煙の流れを見つめる。
言い出すタイミングはここしかないと思った。

「A」

「何?」





「俺と、本当の家族になってくれる?」





「Aと、本当の家族になってくれないかしら」

祖母からそう言われたとき、すぐに理解はできなかった。彼女はそんな俺を見て、それまでの真面目な表情から少しだけ頬を緩めた。

「手続きは煩雑かもしれないけれど、きっとその方が後々あの子のためにもなるかと思って。ずっと前から考えていたことなの。…突然言われても困るわよね」

「…い、いえ」

やっと出た声はかすれていた。祖母が言った“本当の家族”というものは、戸籍上のことを指しているのだろう。今の俺は、あくまでAを預かっているだけ。兄という立場を名乗ってはいるが、実際は生活を共にしている、知り合いの子供と両親を亡くした幼子という関係。それを、本当にAの保護者として認めてくれると言うのだろうか。

「…さすがに、無理なお願いかしら」声のトーンを落とした祖母に、慌てて否定する。

「いえ、そんなことはないです。むしろ」嬉しい、という言葉はさすがに続けられなかった。驚き。困惑。罪悪感。嬉しさ。それらの感情がめちゃくちゃになって、混乱する。

「ただ…」少しの逡巡の後、口を開く。



「ただ、俺なんかで良いのかな、って。Aは」

俺の言葉に祖母は優しく笑った。



「それは、Aが1番よく解ってるわ」
 
 
 
 
 

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時代(プロフ) - 牧野さん» 最後までお付き合いいただきありがとうございます!続編や次回作については今のところ白紙ですが、余裕ができたら書いていこうと思いますので、その際はよろしくお願いします(´▽`) (2021年5月17日 7時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
牧野 - 完結おめでとうございます!終わっちゃうのが寂しいくらいとても面白かったです。続編とかあったら嬉しいですが、無理はせずこれからも頑張ってください(≧∀≦) (2021年5月16日 22時) (レス) id: 90b419fcc1 (このIDを非表示/違反報告)
時代(プロフ) - あみさん» コメントありがとうございます!もう少し続く予定ですので、お付き合いいただければ幸いです(^^*) (2021年4月6日 7時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
あみ - 面白いです!応援しております!頑張ってください!! (2021年4月6日 0時) (レス) id: 6eb6482913 (このIDを非表示/違反報告)
時代(プロフ) - くるみさん» 私にはもったいないほどのお言葉…!本当にありがとうございます。前作もお読みいただき、嬉しい限りです。ご期待に沿えられるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2020年10月27日 22時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:時代 | 作成日時:2020年10月17日 16時

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