デジャヴ ページ37
長旅の疲れが出たのか、風呂を済ませた後、Aはすぐ眠ってしまった。頬にかかった髪を除けてやる。安らかな寝顔だ。やはり実家は安心できるということか。
眠ったことを祖母に報告しなければ。板張りの廊下を進む。あんまりにも静かだから、自然と忍び足になった。居間に顔を出したが、祖母はいない。どこだろうか。広い家の中を見回しながら探す。
ふと、明かりが漏れている部屋があるのを見つけた。ふすまの隙間に指を差し入れて中を覗く。
そこは仏間だった。仏壇にはまだ若い男女の写った写真が飾られている。それが誰なのかはよく知っている。こう見ると、Aは本当に両親に似ていると思う。
息子とその妻の遺影に手を合わせる祖母の背中は、年々小さくなっていくように見えた。
ここは去った方が良い。そう思い踵を返す。が、1歩踏み出したとき、廊下の板がぎしりと音を立てた。
｢＿＿＿あら、清川さん｣振り返った祖母にぺこりと頭を下げる。｢すみません、邪魔して｣彼女は俺の言葉にかぶりを振って、
｢どう？あの子、寝た？｣
｢はい。もうぐっすり｣
｢そう。長旅で疲れるものね。
…清川さん、少し、お話をしない？｣
入れ立ての茶をすする。温かさが喉元から全身に広がっていく感じがして、ほっと息をついた。夜は特に冷える。底冷えという表現がふさわしい。ちゃぶ台を挟んで、祖母と向かい合っている。
このシチュエーションに強烈な既視感を覚えた。いつのことだったろうかと考えて、ああそうだあの葬儀の夜だ、と思い当たるのに時間はかからなかった。あのときのことはよく覚えている。俺とAが、家族になった日だ。…本当に心を通わせられたのは、それからずっと後のことだけど。
｢…毎年、遠いところをありがとう。疲れるでしょう｣口火を切ったのは祖母だった。
｢いえ。Aも楽しみにしてるみたいだし｣
｢そうかしら｣
祖母は1度そこで言葉を切り、口元に笑みを浮かべて遠い目をした。
｢あの子もずいぶん大きくなったのね。ご迷惑はかけてない？｣
｢全くないです。むしろ良い子すぎるくらいで…｣
｢そう。でもどれもこれも清川さんのおかげね。本当に感謝しているの｣
｢とんでもないです｣
彼女は気付いているだろうか。この会話は毎年繰り返されている。けれど今回は少し雰囲気が違う気がした。
｢＿＿＿清川さん｣
名を呼ばれ、背筋を正す。目の前の祖母は、こちらをまっすぐに見つめていた。
｢お願いがあるの｣
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時代(プロフ) - 牧野さん» 最後までお付き合いいただきありがとうございます！続編や次回作については今のところ白紙ですが、余裕ができたら書いていこうと思いますので、その際はよろしくお願いします(´▽｀) (2021年5月17日 7時) (
レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
牧野 - 完結おめでとうございます！終わっちゃうのが寂しいくらいとても面白かったです。続編とかあったら嬉しいですが、無理はせずこれからも頑張ってください(≧∀≦) (2021年5月16日 22時) (レス) id: 90b419fcc1 (このIDを非表示/違反報告)
時代(プロフ) - あみさん» コメントありがとうございます！もう少し続く予定ですので、お付き合いいただければ幸いです(^^*) (2021年4月6日 7時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
あみ - 面白いです！応援しております！頑張ってください！！ (2021年4月6日 0時) (レス) id: 6eb6482913 (このIDを非表示/違反報告)
時代(プロフ) - くるみさん» 私にはもったいないほどのお言葉…！本当にありがとうございます。前作もお読みいただき、嬉しい限りです。ご期待に沿えられるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします！ (2020年10月27日 22時) (レス) id: 7902b277d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：時代 | 作成日時：2020年10月17日 16時
