決断と逃走 ページ26
「……雨、か」
ちいさなため息。
窓に手をついて灰色の空を見上げる海の瞳にはぼんやりとした影が揺蕩っている。
「海……最近、変だよ？」
「変？なにがだ？」
春の言葉にきょと、と首を傾げる海。その指先には何枚もの絆創膏が巻かれている。痛々しいそれから春が思わず目を逸らすと、海は訝しげな表情のまま再び空を見上げた。
「……春、俺はさ」
「うん？」
「俺は、あの子を助けたかったんだ」
「……うん」
「だからさ、過去を変えられるっていうなら、それもありだなって」
「……それで？」
「……俺、あの人にもう一度会ってみる」
海の瞳が、一層暗い影を纏った。
＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿
＿＿
「……嫌な予感がする」
「あるじさん突然不吉なこと言うのやめよ？？？」
現世でお買い物〜、なんていう乱のおねだり。かわいいなぁ仕方ないなぁと久々にたくさんお金を下ろして渋谷に来たらもう見えた。
ど こ か ら ど う 見 て も テ レ ビ の 撮 影 で す 。
(なおこちらからはグラビのメンバーが見えております)(俺は年長組と面識があります)(終わった)(完全に終わった)
内心第三特異点オケアノスもびっくりな大嵐に見舞われながらも表情には一切出さない俺SUGEEEEE。
「あるじさんテンションぶっ壊れてない？平気？？叩く？？？」
「やめてくれ俺は昔のテレビじゃない。あと高速槍を一撃で沈めるお前の打撃で叩かれたら死ぬ」
「やだなー手加減はするよ大太刀沈めるぐらいで行くよ」
「十分強いわアホか」
そんなふざけた会話をしながら顕現時のトラブルのせいで他の個体より青年寄りの姿になっている乱と撮影の様子を眺めていると、黒の王様と目が合った。
もう一度言おう。
黒 の 王 様 と 目 が 合 っ た 。
(あっ死んだ)
目が合った瞬間にニヤッと笑った王様はどんどん近づいてくる。やめろこっち来んな。つーか参謀殿も気づいてらっしゃる？あっ気づいてらっしゃる。ちょっと待てあんたも来るのか。やめろマジこっち来んな。
「逃げる？」
「逃げる」
「おっけー」
乱の手が俺の腕を引く。長い足が地面を蹴る。乱に導かれるまま俺も走り出す。
後ろから足音が聞こえる。そんなこと気にせず、乱は女性向けのブランド店へと向かって駆けていく。
……待てお前、まさか。
振り向いた短刀は悪魔の笑みを浮かべて囁いた。
「あるじさん、かわいくしてあげるね！」
＿＿やめてください。しんでしまいます。
俺の目はきっと死んでいた。
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作者名：澪 | 作成日時：2018年9月20日 15時
