☆10ページ☆ 右翼 【桜の森の満開の下編】 ページ12
其れからというもの、彼は毎日の様に私の元へ訪れた。
「桜下!来たぞ!」
『あら炳五、どうしたのそんなに嬉しそうに。』
「嗚呼、実はな。」
そう言って、彼は今日仕留めた獲物の話や、山で取れたワラヒや山菜の話をまるで子供の様に話す彼を、いつの間にか我が子の様に思う様になっていた。
だからこそ、私は…自身が眠りについた後の事が心配だ。
私は桜の化身。
花が散れば、私は消え、再び春に蘇る。
その間に彼が孤独に苛まれ、心を病んでしまわないか…其れが私の心残り。
そんな事を考えている時だ。
彼が私の前に落ちて来たのは…
「痛っ、なんや、ここ?」
『……(この人は…もしかして…文豪なのかな?)』
その青年は二十代半ば位で、茶色の革ジャン。
何より印象に残ったのは…とても長い三つ編みに、優しい眼差しだ。
本当なら助けてあげたいけど…そもそも、彼に私が見えるのか…
試してみるか!
『其処の方、大丈夫ですか?』
すると、彼は私の声に反応するや否や勢い良く振り返った。
「嗚呼、大丈夫や。
わし、結構頑丈やさかいな。
其れより、なんであんさんの様なベッピンさんがこんな山奥に居てはるんや?」
『其れは…ッ!』
ニカっと太陽の様に笑う彼をみて、不思議な感覚に襲われた。
其れは彼も同じだったらしく、彼はジッと私を見つめ…小さく、だが、ハッキリと…その言葉を口にした。
「やっと、見つけたで…わしのおっしょはん。」
彼のその眼差しはまるで、大切な宝物を見つけたかの様に優しく手を取り…
チュッ
小さな口づけを落とした。
「わしは織田作之助。
皆からはオダサクって呼ばれてるんや。
これからよろしゅう、おしょっはん」
"織田作之助"
『やっぱり、貴方は…』
彼は無頼派三羽鴉の右翼。
地元大阪を舞台にした作品が多く、尚且つ女性の心理を語る作品が印象的な作家だ。
更に他の二人と比べて、どちらかと言うと明るい話が多いのも特徴だ。
そして………
彼は病で早くにこの世を去った人物だった。
嗚呼、そうか…だから、彼が此処に来たのね。
『オダサク…貴方にお願いがあります。』
私は彼に今までの経緯を彼に話した。
その話に彼は驚いていたけど、最後には切なそうに。
「ありがとうな、おしょっさん。
アンタが安吾の拠り所になってくれてたんやな。」
その言葉を最後に私の意識はフッと眠った。
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なのは(プロフ) - 更新楽しみです! (2020年7月3日 3時) (レス) id: 122a982782 (このIDを非表示/違反報告)
空夜☆時音(プロフ) - 夢さん» ありがとうございます!pixivとこの作品は重なる様に書いて居ますので好みによって違うかも知れません。これからもよろしくお願いします! (2020年5月25日 15時) (レス) id: b7a01024a7 (このIDを非表示/違反報告)
夢 - pixivでも見てます!更新頑張ってください!(私も小説頑張ります) (2020年5月25日 14時) (レス) id: ed90ac981f (このIDを非表示/違反報告)
夢 - がんばれがんばれ(語彙力) (2020年5月25日 10時) (レス) id: ed90ac981f (このIDを非表示/違反報告)
べっこうあめ - 初コメ失礼します! めっちゃ面白いです!作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2020年5月21日 8時) (レス) id: 036a34d0ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空夜☆時音 | 作成日時:2020年4月18日 3時