8 ページ8
.
……違う違う、話題逸れてんねん、知らん間に。
『とりあえず今日は無理そうですねぇ、屋上は』
「あ〜、せやなぁ。屋上はな？」
『……屋上は？』
くすんだ窓ガラス越しにどしゃ降りで白んでる外を見て呟いたら、彼は意味深にそう言って、悪戯っ子みたいな笑みを浮かべた。
「こういう雨の日はな、ここで食べんねん」
「今までもそうしてた」って屋上歴三年の先輩が笑って、ここ、と真下を指差す。真下っていうか、階段？
確かに埃まみれやと思ってた階段は案外そんなこともなくて、手すりは誰も使わへんからかあんまり綺麗じゃないけど、この辺りの地べたは結構綺麗やった。
それに4.5階ぐらいの高さに位置するこの場所は、覗き込まれでもしないと見えへんし、この薄暗さがなんて言うか秘密基地みたいでわくわくする。
『……なんか、めっちゃ良いですねぇ』
「んはは、やろ？」
どっこいしょ、と言いながら適当な段に腰を下ろしたら、「ほんまにそれ言うやつおるんや」なんて笑いながらも先輩も隣に座った。
いつものように並んでお弁当を食べ始めたとき、ふと気になって聞いてみる。
『先輩は、いつから屋上来るようになったんですか？』
「ん〜、高一の5月ぐらいやったかなぁ」
『早っ。屋上立ち入り禁止って知ってましたよね？』
「おん、……てかAの方が早いしな。高一の4月に見つけたやろ、ここ」
『ほんまや』
やっぱ不良や、って先輩のことをツッコんだつもりやったのに猛烈に自分に返ってきて肩を竦める。
高い声で笑った先輩が、頬張った唐揚げを飲み込んで言った。
「好きなように飯食って、昼寝できて。落ち着くねんな、ここ」
『……』
「二年誰にも見つからんかったから、三年目にまさかAが来るとは思わんかったよな？」
『すいませんほんまに』
「なんで？！謝らんでええよ！」
だってそれは、私が先輩の大切な場所に入り込んで、その時間を奪ってしまったっていうことやんか。
そう思って即座に謝ったら、先輩はそんなつもりで言ったんじゃなかったのか、慌てた彼に下げた頭をぐいっと上げられて、その黒目がちの目が近い。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 328人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽて子 | 作成日時：2023年6月11日 22時
