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「……俺の苦労が分かりますよ、ハハッ」

向かってくる二人をどうしようかと思っていると、スズさんが目をそらしながらポソリとつぶやいた。わかりますわかります、その苦労!今俺実際に体験させられてますから!だからお願い見捨てないで助けて!

「あ、はは〜。遠慮させてもらいます」
「そうですか……」

頬が引きつっていることを自覚しながら必死に笑顔を作って断りを入れる。ここでバイトも悪くないかなとも心の隅で思ったけれども、スズさんの状態に、ここはやばいところなんだろうという思いが勝ってしまった。スズさんの顔は笑っているように見えたが、確実に目は死んでいた。
 残念そうに肩を落とすスズさんに、アンタ自分の役割押し付けようとしてただろ、と思いながらも少し同情心を覚えて何とか取り繕って弁解をする。

「あーえっと、今はこのバイトやらせてもらってますけど、……そろそろ受験学年ですし、これからのこと考えなきゃ、いけないから」

高二の冬。受験生のゼロ学期と言われ始めるこの時期だ。そろそろバイトもやめないといけないと本心から思っていた。既に勉強に精を出している人も少なからずいる。そんな人たちを見て俺もいろいろと考えていた。
 だんだんと語尾が弱くなっていくのは自分でも理解していた。そして俺の声が消えてもその場に声が聞こえることはなかった。いつの間にか下を向いていたことに情けなく思いながらも顔を上げてそっと周りを見回すと納得がいったような顔をした人と呆れたような顔をした人、苦笑しながらもこちらをまっすぐに見つめる人がいた。

「え?み、皆さんどうされたんですか?」

その沈黙に得体の知れない恐怖を覚え、空気を変えようと言葉を発する。それを合図にしたかのように三人は一斉に動き出した。

「えっと、今から時間あります?」

躊躇いがちに聞かれたことに驚きながらも何とか返事をする。この後はどうせあがりだから届けたという連絡さえすれば少し遅くなってもかまわないはず。そんなことを冷静な自分が考える。

「えっ、いやまぁ、あるっちゃぁ、ありますけど」
「じゃあ、そこに座って座って〜」

曖昧な答えを返すと背中をぐいぐいと押された。連れて行かれたのはすぐそこにあったソファ。展開の速さについていけない俺を追い越すように、乱雑に本やノートが広げられていた机は綺麗に片付けられ、女の人がお茶を持ってくると言い残して奥のほうへ去っていった。

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作者名:とまとまと | 作成日時:2020年7月9日 21時

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