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コトリと硬いものがぶつかった音がした。少しだけ目線をあげると黒いテーブルの上に対照的な白いマグカップがおいてあった。湯気が出ているところを見るとあったかいものらしい。そこまで考えて思い出した。確か女の人がお茶を入れてくると言っていたような。
じっとそのマグカップから立ち上がる湯気を見つめていると、扉の開く音と間延びした声が聞こえた。
「先輩〜、冷え冷えのピザどうします?」
「ももちゃんに聞いて欲しいな〜。それ、ももちゃんが頼んだやつでしょ?」
外に置いていたピザを持ってスズさんが面倒くさそうにサトーさんに聞いた。サトーさんはサトーさんで笑顔のまま女の人、ももさんに丸投げをしていた。俺は声には出さず心の中で、冷えてもまたチンしたらおいしいので捨てずに食べてください、と付け加えた。
「冷蔵庫入れといてください、後でみんなで食べましょ」
ももさんが元気よく答えて、スズさんに指示を出した。それに一つため息を吐いて、スズさんは奥へと消えていった。
「うん!よぉし、みんな集まったことだし、自己紹介から始めよっか。じゃあ僕からね。僕は、佐藤 美里です。この二人の大学の先輩だよ☆」
スズさんが奥に行ったのを見計らってサトウさんが勢いよく立ち上がって自己紹介を始めた。スズさんがいないことをももさんに突っ込まれていたけれど、華麗に流したようだった。勢いに吃驚して背筋を伸ばす。俺の困惑をも華麗にスルーしてウインクをしたサトウさんに苦笑いを返す。
「鈴木です。後輩その一です」
「百瀬でーす!後輩その二だけど、もうちょっとまともな先輩のところに行きたい!」
「それ聞きたくなかったな、ももちゃん!」
いつの間にか戻ってきていたスズさん、そしてサトウさんだけに被害を及ぼす爆弾を落としたももさん。どちらも苗字だったことに少し驚きながらも、引きつった笑いで同じように自己紹介をする。
「はは、……渡部 大輔です。高二で、ピザ宅配セブンスでバイトやらせてもらってます」
「うん、よろしく!」
満面の笑みで握手を求めてきたサトウさんに流されるまま手を握られ上下に激しく振られた。その勢いが、手どころか腕までもげそうになった強さだったことは、俺の心の引き出しにそっとしまっておいた。
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作者名:とまとまと | 作成日時:2020年7月9日 21時