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弐拾参 ページ39

「たぶんどうでもいい話だと思うから、適当に聞き流すつもり……、ど、どした?」


「…俺、ついてく」

加州がそう言って私の手をあまりに強く握ってくるので私は握り返した。

「心配してくれてありがとう。…でも大丈夫よ。」

「…っ…なんで」

私の返答を良しとしなかったのか、声色は震えている。俯いているせいで彼の顔が見えなかった。

「え?」

「もっと俺を頼ってよ!」

「!…」

その言葉に息を飲んだ。……まさかここまで心配してくれているだなんて思わなかったから。


「俺、あの日のことずっと忘れられないんだ。
いつなんどきも"主"を守るのが俺たちなのに何も出来なかったから…!
あの時はただ悔しかった…。もう俺はあの日を繰り返したくない…!

だから_っ!

…なんで泣いてるの?」


「だ、大丈夫?」

「…な、なぜ…っ!?
加州ー!貴様ぁ!!あのお方に何をしたんだ!答えろ!!答え次第では容赦しない!」

ボロボロと零れる涙に三人が慌てふためいた。

加州は顔を青ざめて、どうしようどうしようとおろおろしていて、
大和守は私の背中をさすり、

……長谷部は、なぜか加州に怒りを向けている。


「ふふ、本当に皆は"いい人"だね…。」

その姿を見ていると自然と顔がにやける。

彼らがいい人すぎて私にはあまりにも彼らが眩しかった。

私のせいで彼らがこんな有様になっているのに、なんだかこの光景を見て嬉しいと思ってしまう私はやはり"悪い人"だ。


彼らは私が泣いたことに驚いているだけ…、別に私が愛されているからじゃないのはわかる。

「いい人になりたいな」

独り言で呟いた一言を長谷部は敏感に反応する。

「何を仰っているんですか!?貴方様は十分お優しいではありませんか!
まさか、加州がほざいたんですかっ!?」
「はあ!?俺が言うわけないだろ!」

私が違うという前に加州が否定した。

「確かにそうだけど…、清光が喋ってた時に泣き出したから…
もしかすると清光の言ったことの何かが気にさわったのかも…。」

「安定!?」

まさかの大和守の肯定でもなく否定でもない言葉に加州が声を上げる。


「加州…」

「へ!?」

「ありがとう!…そう言ってくれてすごく嬉しい。
大好きだよ」

私が加州の手をぎゅっと握り返してお礼を言った
この気持ちをこんな言葉でしか表現出来ないのがもどかしい。


「…お、俺も…俺も好き!愛してる!!今すぐ祝言を挙げよ!」

「…はい?」

また変な誤解が生まれた気がした。

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作者名:沙恵燬 | 作成日時:2019年2月1日 1時

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